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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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静かな夜に人形は舞う

―馬車 夜中―

 嘘のように静かになった馬車で、僕は景色を眺めていた。ゴンザレスと小鳥はすやすやと寝息を立てながら、体勢的に苦しそうだが、いい子に座って眠っている。

 もう少しでやっと国境が見えてくる頃だろうか。僕は懐から小さな妖精の人形と、片方だけの耳飾りを取り出した。一応、二人が本当に眠っているかかどうかを確認する。


(よし、寝てるな……やっと出来る)


 ゴンザレスは比較的早く寝たのだが、小鳥は僕が少し寝たふりをするまで寝てくれなかった。


(僕が寝たふりをしたら、高速で寝たけど疲れてたんだろうな。彼女も。無理もないね)


 お陰で、こんなギリギリの場所でこの魔法を使うことになってしまった。今から僕が使おうとしている魔法は、僕が生まれる少し前くらいに禁止された魔法だ。つまり、禁忌の魔法である。

 人形の片耳に耳飾りをつけ、僕は、自身の指の皮膚を少し嚙み千切った。


(痛いな……仕方ないけど)


 当然、血が溢れてくる。そして、その血を人形の心臓部分に血をつける。


「我が魂を一年ひととせお前に与えよう。我が命に従い、この耳飾りの持ち主を探せ」


 と、二人に聞こえないように人形の耳元で囁いた。人形につけた血が、その呪文を唱えた瞬間に消えた。消えたというより、吸収したという方が正しいかもしれない。

 この魔法は、古い物だから唱えないと効果が生まれない。そう考えると、最近の魔法は対象に手を向けて考えるだけでいい、何と便利な物だろうか。

 僕の血が完全に吸収した瞬間、人形は一回瞬きをした。そして、僕の脳内に語りかけてくる。


『ありがとう、王様。一生懸命、探すね』

『頼んだよ』


 これが、僕と人形の会話手段になる。どんなに遠く離れていても、これは有効らしい。

 この古い魔法、禁忌の魔法を教えてくれたのはおじさんだ。あの人は僕に、何故か禁忌の魔法ばかり教えてくれた。


「自身の命を削ることの何が悪いのか」


 それがあの人の口癖だった。それはまるで、禁忌魔法という概念を生み出した父上に反発するかのようにも見えた。

 僕は、人形を馬車の窓から落とした。人形は、ふわふわと舞うように、遠くへ消えて行った。人形が何を感じているのか、それも何となく感じることが出来た。


(やっぱり……まだ、この国にはいるんだね。睦月)


 そう僕は睦月を探す為にこの魔法、人探しの魔法を使った。この魔法でしか人は探せない。国を守る為、手段や自分の命を削ることに迷っている暇などなかった。


(少しでも、皆に迷惑を掛ける期間を減らすことも出来る)


 僕は僕の寿命が一体どれほどなのかは知らない。もしかしたら、後数年程度かもしれないし、何十年と長いかもしれない、予想の範囲でしか考えることは出来ない。

 でも、一つ分かっていること。それは、僕が僕としていられる期間はそう何年も残っていないということだ。

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