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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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首飾り

―城門前 朝―

 日が昇る前だと言うのに、城門前には多くの民衆と記者が集まっていた。


(一体何を見る必要があるんだろう……うるさいなぁ)


 何か色々言われている気がするが、適当に手を振って微笑みかければ、大体解決する。即位して約二年、あしらい方を学んだ。

 今日は上野に行く日、ただそれだけなのにお祭り騒ぎである。それを助長するかのように、群衆から歓声が上がった。馬車が空から舞い降りたのだ。


(嗚呼、いよいよか)


 僕と小鳥とゴンザレスは、一緒の馬車に乗るようにと言われた。正直、ゴンザレスがいるのは嫌である。快適な空の旅は、夢と消えた。


「おい、おい」


 ゴンザレスが近付いてきて、ひそひそと僕の耳元で囁く。


「何だ」

「お前風呂入ったのか?」


 ニヤニヤしながらそう言った。


「後で、ちゃんと入ったよ。お前のせいで二度手間だった」

「それくらいで済んだことに感謝しろよ。優しいもんだろ」


(つまりあの熱湯を僕にぶっかけたのは、あの時の仕返しみたいなもんってことか)


「あのお方は誰?」

「顔を隠してて誰か分からないけど、背丈は巽様と同じね」


 そんな女性達の会話が聞こえて来た。そう、ゴンザレスは一応顔を隠している。

 万が一の場合、顔を出していては、入れ替わるのが難しくなりそうだからだ。それに顔が同じだと皆が混乱する。服も、使用人服を着て――。


(あれ?)


 ゴンザレスをよく見ると首飾りを身につけていること気付いた。それは、どちらかと言えば女物のように見えた。真ん中には黄緑色の宝石がある。恐らくこれは、橄欖石(かんらんせき)だろう。

 しかし、宝石にしては輝きがなさ過ぎるような気がした。濁っているというか、暗いというか。


「何見てんだ、これが欲しいのか?」


 僕があまりにもまじまじと見たせいか、ゴンザレスが不快そうな顔を浮かべながら、そう言った。


「そんな訳ない。お前が、そんな装飾品を身につける人間だとは思わなかったから、少し気になっただけさ」

「折角貰ったから、つけてみただけだ」


 と声色はいつも通りを装っていたが、顔は明らかに嬉しそうだった。照れ隠し、と言った所か。


「女性から貰ったのか?」

「だったら、何だよ」


 それを指摘すると、恥ずかしそうに目を逸らす。


(一体誰から貰ったんだ? それなりに高価そうだが)


「巽様、ゴンザレス様~、そろそろ出発です~!」


 小鳥が馬車の前で叫ぶ。よく響く声だ。


「今行く!」


 僕は走って、馬車へと向かう。


「あ、待てよ!」


 ゴンザレスも僕と並立するように走る。そして、全く同じ時に馬車へと辿り着いた。隣のゴンザレスは、息切れを起こしている。


(この距離で疲れるとは……運動したことあるのか?)


 そう思いつつも、馬車へと乗り込む。窓際へと座り、城門を見た。そこには父上と母上、美月、そして外交大臣を除いた大臣と何人かの使用人が見える。閏と皐月は、城内でお留守番という所だ。


「おー、これが馬車かぁ」


 目の前にゴンザレスが乗り込んで、同じように景色を楽しんでいる。


「行ってくるわー、ネックレスありがとよー」


(ねっくれす……首飾りのこと?)


 ゴンザレスは、そう言って誰かに手を振った。しかし、出迎えに出ていた全員が手を振っていた為、誰に対してだったのかは分からなかった。

 そして、最後に小鳥が僕の隣に乗り込んむ、これで準備は万全だ。


「楽しみですね!」


 小鳥は優しく僕に笑いかける。


「そうだね、わくわくするよ」


(文字しか知らない相手。嗚呼、どんな子何だろう? 長い間待ち続けていたこの日を、ちゃんと迎えることが出来て本当に良かった)


 馬車がゆっくりと走り出して、上へ上へと昇って行く。


「うおおお! すげぇええええ!」


 ゴンザレスは、窓から顔を出す。


「お前は、子供か」


 僕がそう呟いても、ゴンザレスは反応しなかった。それくらい、目の前のことを楽しみ、夢中になっていた。


「飛行機よりすげぇじゃん! 何なの、この馬!」

「ぺがさすだ。と言っても、その辺のぺがさすとは違うらしい」

「片言で言うなよ。聞いたことをそのまま言ってるだけなの、丸わ分かりだぜ」

「チッ、馬は馬でいいのに……それより、それよりさっき言ってた飛行機って何だ?」

「あ、私も気になりました。飛行機って何ですか?」

「はぁ~、しょうがないな。教えてやる! 飛行機って言うのはぁ~……」


 ゴンザレスは、飛行機について語り始める。長い空の旅、快適でなくなった以上、その責任を取らせてやろうと考えた。ゴンザレスに向こうの世界のことを色々と聞いて。

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