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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
一章 変わらない世界
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輪の中の疎外感

―茶の間 夜―

「遅くなりました」


 僕は、そう言って部屋の中に入った。席は暗黙の了解で決まっている。

 横長で幅のある机の中心が父上で、そこから時計回りに母上、一番上の姉の睦月、二番目の姉である美月、僕、妹の皐月、弟のうるう、年功序列の並びだ。


「仕事か?」


 父上は、こちらを見ようともせずに言った。その声によって場は一気に静寂に包まれる。


「はい」


 父上は時間に厳しい。数分の遅れを嫌がる。だから、基本的には五分前にはいないといけない。

 しかし、僕はその約束を破った。


「全く……相変わらず、お前は駄目だな。今までも何度も言っただろう。時間はお前だけのものではないと」


(使用人の子の話を聞いていた、なんて言ったらあの子はどうなる? それに元はと言えば僕のせいだ。僕に非がある)


「申し訳ありません、父上」


 深く頭を下げた。勿論、父上だけは見ていないけれど。


「使用人が時間になれば行くようになっているはずですが……」


 見かねたのか、机に料理の皿を置いていた一人の使用人が割って入ってきた。

 僕は、顔を上げてその人物を見た。その人物の顔は、あの少女とどことなく似ていた。


(母親……か)


「嗚呼、使用人は確かに来たよ。でも、どうしても仕事を終わらせたかった。それで時間を延ばしてしまった。だから、その使用人に非はないよ。悪いのは全て僕だから」


 僕が使用人にそう言うと、父上の渋い声が入り込む。


「また後で二人で話をしよう。これ以上、私は食事を不味くしたくない。座れ」

「はい」


 僕は、その言葉に従って自分の席へと座った。


「では、食事を始めよう」


 父上のその言葉で、張り詰めた空気は消えて穏やかな空気に包まれた。


「「「いただきます」」」


(こんなに場の影響力を持つなんて、やっぱり父上は凄いな。これが王の威厳なのか。それに比べて僕は本当に情けない)


「美味ですわぁ~、このクラーケンのお刺身! 山葵とお醤油とのハーモニー! 皆も食べて~」


 睦月は、手を頬に添えながら贅沢に刺身を口に入れる。食事を食べる時だけ何故かこの口調になる。


(はぁもにぃ? 睦月と美月は、よく分からない言葉を使うから困るな)


「この牛のステーキも中々いい。私達の国の牛と違って毒を抜く必要がないからかしら? 素材の味がしっかりとある、とても美味しい」


 美月は、感情のない声と表情で淡々とそう言った。僕の記憶のある時からずっとこうだ。何年も一緒にいるが、少し怖い。


「美月~、本当に美味しいって思ってる?」


 刺身を食べながら睦月は、挑発するように言う。


「思ってる」

「美月姉様は、感情修行をした方がいいでござるよっ!」


 皐月が、箸を使わずに野菜を手で鷲掴みしながら言う。


(なんでござる口調? 皐月の中の流行りなのかな?)


「なら、皐月はお行儀を良くする修行でもした方がいい」

「え~やだよ! 面倒だもん! ねぇ閏!」


 閏は無言で首を横に振った。


「えぇ~!?」

「お行儀良く食べなさい。皐月」


 母上は呆れた様に言った。


「お行儀嫌い!」


 そう叫ぶと、皐月は部屋から走って出て行ってしまった。


「皐月様!」


 一人の支配人が慌てて追いかける。


(反抗期か、大変だな)


「全く……」


 父上の優しい声だ。僕には、向けられたことのない声。


「ちょっとぉ~巽、全然食べてないじゃない! いつまで引きずってんの! 大体、あんたは食べないと駄目よ! 仕事で忙しいんでしょ!」


 睦月が、頬をモグモグとさせながら言った。


「あ、いや、違うよ。睦月も美月も皐月も閏も、仲良良くて微笑ましいなと思ってただけだよ」

「はぁ? 何言ってんの! 仲良くて当たり前でしょ! 家族だし」

「ほれほれ、お肉あげるから元気出す」


 美月が、無理やり口に肉を入れてくる。


「あ゛つ゛っ゛!」


 美月の手をよく見ると、火が見えた。


(火の魔法をわざわざ使って、この嫌がらせ。酷過ぎる)


「まだまだあるよ」

「普通に食べさせてよ!」


(せめて笑ってやって欲しいもんだよ。真顔でやられると、恐怖以外のなんでもない。うわー舌がかなりヒリヒリする)


 僕はどちらかと言えば、猫舌だ。それを知っててこの嫌がらせ、いや拷問。許されざる行為だ。


「はい、あーん」

「やめて、やめてってば!」


 この時間が、僕もこの人達の家族なんだと安心させてくれる。昔のように、一緒にいられる時間は少ない。だからこそ、この時間は大切なのだ。

***

―茶の間 夜―

「「「ごちそうさまでした」」」


 なんやかんやで夕食を食べ終えた僕は、急いで部屋を出た。懐に忍ばせた手紙を、飛脚に渡さないといけない。


「巽」


 美月が、僕の横に小走りでやってくる。


「何?」

「何か急ぎ?」

「うん、手紙をね」


 僕が、書いた手紙を懐から取り出した。


「そっか、それは急がないと駄目だね。じゃあ簡潔に言う。父さんは巽に厳しい。巽に駄目駄目とか凄く言うけどさ、巽が来る前までは私達に巽の自慢を沢山してた。恥ずかしいから言っちゃ駄目って言われてるけど、なんか見てられない。父さんは、かなり不器用で恥ずかしがり屋なだけだよ」


(恥ずかしがり屋? 父上が恥ずかしがり屋なんて、ありえない。いつだって堂々として威厳がある。嘘としか思えない。僕のいない所で言ってたなんて、どうにでも捏造出来る。それに、記憶のある限り褒められたことなんて一度も……いつも否定される。でも、否定されて当然なんだ。だって、僕はその言葉通り、駄目駄目なんだから)


「僕みたいな駄目な奴のどこに自慢出来る所があるんだよ。僕を元気づける為の嘘なら、もうとっくに元気だから大丈夫だよ。ありがとう、じゃあ」

「嘘なんかじゃ――」


(もう、少ししか時間がない)


 僕は、飛脚が次に配達に行く時間に遅れないように走った。

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