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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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部屋への侵入者

―自室前 朝―

 僕は食器を片付けた後、自室の前に戻って来た。そして、扉を開く。

 しかし、目の前はいつも通りではなかった。美月が、僕のベットに寝転がりながら手紙を読んでいたからだ。


(僕に怒ってた筈の人間が、足を楽しそうに動かして、僕のベットで何してるんだ!?)


「あああ! 何勝手に読んでるんだよ!? 何勝手にベットで寝てるんだよ!? 何勝手に人の部屋入ってるんだよ!?」


 焦りと恥ずかしさで体全体が熱くなるのを感じた。僕は慌てて美月から手紙を奪い取ろうとしたのだが、簡単にかわされる。


「鳩が運んで来たの、まさかこんな風にやり取りしてるとは……まだ読んでないんでしょ、朗読してあげる。親愛なる巽さんへ。猫はそんなに可愛いの――」


「やあああ! やめてよ! 自分で読むから! 早く返してよ!」


 なんとか美月の腕を掴んで手紙を奪おうとしても、寸での所でまたかわされる。そして、朗読を続ける。


「知らなかったわ。私猫を見たことないの、いつか見れるかな」


(前の手紙で何か可愛い動物を知りたいと書いてあったから、猫って書いたんだよな。嗚呼、恥ずかしい! よりにもよって、美月に見られるなんて最悪だ! 早く奪い返さないと! その為にもまず、一度状況を確認しよう)


 美月は、窓枠で春風に当たりながら優雅に再び手紙を朗読し始めている。


(窓が開いてる。美月は飛べない。気付かれないようにいけるか?)


 先ほどは、声を出しながら近付き、動揺して動作が大振りだった。だから、美月にとって手紙を奪われないようにするのは簡単だったという仮説を立てるなら。


(静かにゆっくりと存在を消してやれば、上手く行くかもしれない)


 可能性なんて、分からない。自分の中で自分のいいよう作った仮説。でも、今はそれに賭ける。僕は意を決して、ゆっくりと一歩進む。

 ちらっと美月を見ると朗読に夢中らしく、僕が静かに一歩進んだことに気付いてないようだ。


(よし落ち着いて。距離が近付いたら思いっきり一気に行く)


 息をとめて、目の前の美月に集中する。


(まるで狩りする動物にでもなった気分だ)


 一歩ずつ一歩ずつ慎重に気配を消して近付いて、美月のすぐ近くの所まで来た。ここで、少しでも目線を上げられたら終わりだ。だから、その隙も与える訳にはいかない。


(一気に行く!)


 僕は、美月に飛びかかって、窓枠の上で倒れさせて腕を掴む。


「うわっ、変態」


 上半身の殆どが、外に出ているのに怯える気配もない。ましてや、美月は飛ぶ魔法が使えないのに。

 実は、怖いのかもしれないけど、残念ながらそんな気配は感じない。まさに、余裕綽々な態度だ。


「返して」

「分かった。分かったって」


 ようやく、美月の手から手紙が離れる。


「ねぇ、何で僕の部屋にいたの? 何で勝手に読んでたの?」

「痛い痛いって。この体勢かなり辛いんだけど」

「質問に答えてよ」

「……答えないと、永遠にこのままなのかな」

「力尽くでも吐かせるよ」

「力尽くかぁ……私にそんなこと出来るの?」


 冷めた目で、じっとこっちを見つめる。


「出来るさ、昔の僕とは違うんだから……」


(そう違う、違うんだ。あの時よりはずっとずっと強くなった。弱いのには変わりはないけど、美月ぐらいになら通用する)


 掴んだ腕への力が自然と強くなる。


「違う……確かに違うね。可哀想なくらい違う」


(可哀想? 何でだよ。というかかなり話ずれてるし……)


「はぁ……話ずらして逃げようとしないでよ、ねぇ、何で僕の部屋に勝手に入って手紙読んでたの?」


 僕は、美月の顎を思いっ切り掴んで上げた。下が、地面が、よく見えるように。


「あ……最悪。流石、ずっと鍛え続けてるだけあるわ。不意以外には強い」


 魔法を使おうとしたのだろうが、がっちりと掴んでやっているので手を僕に向ける事は不可能だ。


「さぁ、答えてよ」


 ようやく美月は観念したのか、僕の問いに答える。


「仕方ない。今回だけ負けを認める。部屋に入ったのは、巽の様子を見たかったから。でもいなくて帰ろうとしたら鳩が来て、何か紙を持ってるから、何だろうと思ったら手紙を持ってた。それだけ」

「どこまで読んだの?」

「全部」

「やっぱり相手も分かってるよね」

「大切な婚約者さんでしょ、会えないからってこんな風にやり取りするなんて、かなりの素敵ね。こういうのをロマンチックって言うのよ」

「そこはどうでもいいだろ。それより、内容誰にも言わないでよ」

「わかった、わかったって。もうしんどいから早く起こしてよ」

「起きれないの?」

「この体勢から自力で起き上がれっていう方が無茶よ」


(まぁ……それもそうか)


 僕が、美月を引っ張り起こそうとした時だった。不運は続く。自室のドアが開いて、誰かが入って来たのだ。

 慌てて後ろを振り向くと、そこには驚愕の表情を浮かべる小鳥が立っていた。瞬間、手に持っていた湯飲みが割れる音が部屋に響く。


「ご、ごめんなさい!」


 そして、物凄い勢いで部屋から小鳥は飛び出した。その反応は、見てはいけないものを見てしまった時と同じだ。


「違う! 待ってくれ!」

「あ~あ、やっちゃった」

「やっちゃったじゃないよ! 誤解を解かないと!」

「面白いから、そのままでもいいじゃない」

「頭大丈夫!? やっぱり、一回地面に落としても……」

「ダメダメ、どうにかする。早く起こして」

「言ったね。絶対だよ」

「はい、はい」


 僕は、美月を引っ張り起こす。


「とりあえず、彼女を追おう」

「えいえいおー」

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