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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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朝の胃に厳しい

―自室 朝―

 朝ご飯にしては、少し重たいような料理が多くあった。

 ステーキ、揚げ物、濃い味の汁、揚げ物周りの野菜と、白くて甘い物が大量にかかったお菓子。朝の胃に優しいとは、とても言えない。

 だが、それは彼女の責任ではない。料理長が重い物ばかりしか作らないのだ。それに、誰も文句を言わない。しかも、皆当然のように口に入れる。

 さらには、朝ご飯にこんなに食べることが出来るなんて最高と大好評だ。


(分かっていたとは言え、やっぱりしんどいな。皆胃袋どうかしてるよ)


「えっと、西洋から輸入した牛のステーキに、茄子の揚げ物とアクリスの唐揚げにキャベツ。料理長特製スペシャルスープ、それとクリームたっぷりのパフェです! 特に、特製スープは、元気になれるそうです!」


 料理をそれぞれ指差しながら、説明をしてくれた。


(美味しそうだけど。何を言っているのか全然分からない……)


 僕は唾を飲み込んで、茄子の揚げ物をまず口に入れる。その瞬間、まるで口の中に異物を入れたような気分になった。


「ううっ!」


 思わず吐き出してしまいそうになる。それでも、何とか飲み込んで、無理矢理流し込んだ。人生でこんな物を食べた記憶がないから、味の表現が出来ない。


「大丈夫ですか!?」


 僕の背中を優しく摩る。


「あ、嗚呼……」


(何故、不味いと感じる? そんな筈はない。確かに重いけど味は絶品なんだ。もう風邪じゃない。風邪が治ったから、味がある……)


 先ほどまで美味しそうには見えていた茄子の揚げ物は、僕の中で不味いと認識されてしまったようで、もう口に入れる気もしない。美味しいそうとも思えない。


「もしかして、まだ体調が……?」

「いや違う。違うんだ。もう治ってる。こんなに濃厚な物を食べたのは久しぶりだったせいかな。ハハハ、ちょっと口直しにこれ食べるよ」


 茄子の揚げ物の隣にあった、アクリスの唐揚げと呼ばれた物を恐る恐る口に入れる。すると、今度はすんなりと噛むことが出来た。


(美味しいとまでは感じないけど、食べれないことはないな。う~ん……何故だ?)


 料理長の作る料理を、昔からずっと食べてきた。今までそれを、不味いなど一度も感じたことなどなかった。今生まれて初めて、美味しくないと感じたのだ。

 風邪のせいにしたいけど、もう風邪は治っている。寧ろ普段より健康的に感じるくらい体は楽だ。それなのに一体何故なのだろう。


「食べられますか?」


 小鳥が、心配そうに覗き込む。


「大丈夫だ。絶対に食べられる。ちょっと時間が掛かるかもしれないが、絶対に全部食べるよ」


 彼女にそう言うのと同時に、自分にもそう言い聞かせる。


「でも……」

「大丈夫。久し振りに食べるせいだから。それより、君には仕事があるだろう? そっちの方を優先してくれ。食事の皿は自分で戻すから……」

「分かりました。でも、何かあったら、絶対に呼んでください。すぐ駆け付けます!」


 僕は、それに返事はしなかった。何かあったら、また仕事への復帰の道が遠のく。何もしない時間はもう嫌だ。

 何かしないと気が紛れない。休みは嬉しい。だが、それによって、いつもは気付かないことに気付いて、結果、力不足で何も出来なくて、それを誤魔化すことに必死になる。

 この休みの間にどれだけ嘘をついたか、そして、嘘に慣れてしまったか。

 小鳥はこちらを気にしながら扉の前で、いつものように礼をして去って行った。


(嗚呼、また聞くのを忘れてしまった。どう聞けばいいのかが分からない。急に言っても気持ち悪いだけだしな。それより、これか。目の前のことを解決しなければ、頑張れば、食べることくらい簡単な筈……)


 僕は、再び茄子の揚げ物に箸を伸ばした。

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