朝の胃に厳しい
―自室 朝―
朝ご飯にしては、少し重たいような料理が多くあった。
ステーキ、揚げ物、濃い味の汁、揚げ物周りの野菜と、白くて甘い物が大量にかかったお菓子。朝の胃に優しいとは、とても言えない。
だが、それは彼女の責任ではない。料理長が重い物ばかりしか作らないのだ。それに、誰も文句を言わない。しかも、皆当然のように口に入れる。
さらには、朝ご飯にこんなに食べることが出来るなんて最高と大好評だ。
(分かっていたとは言え、やっぱりしんどいな。皆胃袋どうかしてるよ)
「えっと、西洋から輸入した牛のステーキに、茄子の揚げ物とアクリスの唐揚げにキャベツ。料理長特製スペシャルスープ、それとクリームたっぷりのパフェです! 特に、特製スープは、元気になれるそうです!」
料理をそれぞれ指差しながら、説明をしてくれた。
(美味しそうだけど。何を言っているのか全然分からない……)
僕は唾を飲み込んで、茄子の揚げ物をまず口に入れる。その瞬間、まるで口の中に異物を入れたような気分になった。
「ううっ!」
思わず吐き出してしまいそうになる。それでも、何とか飲み込んで、無理矢理流し込んだ。人生でこんな物を食べた記憶がないから、味の表現が出来ない。
「大丈夫ですか!?」
僕の背中を優しく摩る。
「あ、嗚呼……」
(何故、不味いと感じる? そんな筈はない。確かに重いけど味は絶品なんだ。もう風邪じゃない。風邪が治ったから、味がある……)
先ほどまで美味しそうには見えていた茄子の揚げ物は、僕の中で不味いと認識されてしまったようで、もう口に入れる気もしない。美味しいそうとも思えない。
「もしかして、まだ体調が……?」
「いや違う。違うんだ。もう治ってる。こんなに濃厚な物を食べたのは久しぶりだったせいかな。ハハハ、ちょっと口直しにこれ食べるよ」
茄子の揚げ物の隣にあった、アクリスの唐揚げと呼ばれた物を恐る恐る口に入れる。すると、今度はすんなりと噛むことが出来た。
(美味しいとまでは感じないけど、食べれないことはないな。う~ん……何故だ?)
料理長の作る料理を、昔からずっと食べてきた。今までそれを、不味いなど一度も感じたことなどなかった。今生まれて初めて、美味しくないと感じたのだ。
風邪のせいにしたいけど、もう風邪は治っている。寧ろ普段より健康的に感じるくらい体は楽だ。それなのに一体何故なのだろう。
「食べられますか?」
小鳥が、心配そうに覗き込む。
「大丈夫だ。絶対に食べられる。ちょっと時間が掛かるかもしれないが、絶対に全部食べるよ」
彼女にそう言うのと同時に、自分にもそう言い聞かせる。
「でも……」
「大丈夫。久し振りに食べるせいだから。それより、君には仕事があるだろう? そっちの方を優先してくれ。食事の皿は自分で戻すから……」
「分かりました。でも、何かあったら、絶対に呼んでください。すぐ駆け付けます!」
僕は、それに返事はしなかった。何かあったら、また仕事への復帰の道が遠のく。何もしない時間はもう嫌だ。
何かしないと気が紛れない。休みは嬉しい。だが、それによって、いつもは気付かないことに気付いて、結果、力不足で何も出来なくて、それを誤魔化すことに必死になる。
この休みの間にどれだけ嘘をついたか、そして、嘘に慣れてしまったか。
小鳥はこちらを気にしながら扉の前で、いつものように礼をして去って行った。
(嗚呼、また聞くのを忘れてしまった。どう聞けばいいのかが分からない。急に言っても気持ち悪いだけだしな。それより、これか。目の前のことを解決しなければ、頑張れば、食べることくらい簡単な筈……)
僕は、再び茄子の揚げ物に箸を伸ばした。




