表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
41/403

嘘が壊したもの

―風呂 朝―

 僕が、浴布を巻いて風呂場へと向かうと、風呂掃除をするゴンザレスの姿があった。

 ゴンザレスもすぐに僕に気付いたようで、気だるげな顔で僕を見た。


「掃除中だ。去れ」


 しっしっと手で払う仕草をする。


「嫌だ。というか、何でお前が掃除をしてるんだ」

「他の奴が掃除にまで手が回らないから、俺がやる羽目になってんだよ。俺、一応お前の遠い親戚扱いなんだろ? それなのに、掃除って。どいつもこいつも俺の扱い雑過ぎだわ! 第一、掃除なんてやったことねぇし。どうせ、また文句言われるんだろーなぁ。はあぁ~、めんどっ!」


 手に持っていた風呂用刷子(ぶらし)を、思いっきり床に叩き付ける。


「仕方ない。元々人員不足なのに加えて、色々あり過ぎた。それに、お前になら頼んでもいいって皆思ってるんだよ」

「俺は便利屋か何かか? 俺だって忙しいのに」


 今までとは、明らかにゴンザレスの様子がおかしいと感じた。流石の僕でも分かる。


「済まなかった。突然、殴ったりして」

「え? あぁ~、急に何かと思ったらそれか。あれも、本当に酷いよなぁ~。あの後、目が覚めたら、ココドコッ!? 何で、こうなってる!? ってパニックになってたら、まぁ助けて貰えて外に出た訳。なんか、服もお前のしかないし下着姿でドーンって出たら、偶然目の前に……誰だっけ? あれ……あの、いつも挙動不審の……俺ん家の近所のお姉さん」


 顎に手を置いて、んーっと首を傾げるゴンザレス。


(お前の世界の事情なんて知らないが、挙動不審と言ったら……)


「興津大臣か?」

「あー! そうだそうだ! 興津さんにキャーッって悲鳴上げられて、更には女とは思えない力で、俺の顎を力強く殴ってきやがった。そのまま建物の壁にドーン! そこに駆けつけた陸奥さんに、死ぬほど怒られた」


 痛々しいし、悲惨である。所々何を言っているのか分からなかったが、理解出来た言葉だけでも惨状は容易に想像出来た。


(本当に不運だな……)


「身に覚えのないことまで言われたんだが、お前、マジで何した?」


 鋭い眼光で僕を見る。怒っている、僕に対して。


「陸奥大臣から、言われた通りのことをしただけだよ。それ以外は何も」


(ということは、ゴンザレスは僕の証言の矛盾を知ってる訳か、まずいな)


「走って命令を聞かず逃亡、ねぇ。俺がどれだけ否定しても陸奥さんは信じてくれなかった。昨日も今日も。どんなに言っても、明らかな嘘だってね。だから、俺はもう何も言わない。それが重要なことだったとしても、どうせ嘘になるなら、言う価値もないだろ?」


 ゴンザレスの表情も声も暗い。僕の嘘が真実を掻き消して、真実を嘘にした。ゴンザレスには悪いことをしたとは思う。


(国を守る為なんだ。許してくれ)


「でさ、俺……信じてくれない奴の命令とか聞かない信条な訳。この掃除はさ、俺を信じるか信じてないか分からない奴からの命令だから、やってるけど。もし、これがお前とかだったら絶対やってねーから。あ、安心しろ。明日は、ちゃんとついて行ってやるから。今は、この国にいたくない。っと、掃除が長引く! はいはい、さっさと出て行け」


(信じてくれない奴の命令は聞かないか。信じてくれている奴か、どっちか分からない奴の命令は聞くって面倒臭い奴。明日はちゃんと付いてくる訳か。まぁ、出会ってそんなに経ってない奴の証言より、長い付き合いの人は信じたくなってしまうものだと思うけどね……人情的に)


「だから、嫌だと言ってるだろ? 僕は、数日お風呂に入ってないんだ!」

「我が儘だなぁ、じゃあ、浴びせてやるよ!」


 僕に向かって、手を伸ばす。すると、僕に熱湯が降りかかる。


「あ゛つ゛っ゛!!」

「はい、お掃除出来ましたー、さっさと失せろ!」


 まるで攻撃的な野生の動物みたいだ。洗面器や様々な容器を僕に投げつけて、自己制御の出来ない人間なのだろうか。


(……駄目だな、これは。また、後で入るか)


 僕は、体を休めようと決めていたので反撃はしなかった。そのまま、風呂場から出て服を着て、暖簾を潜った。その時、凄い勢いで何かが僕にぶつかる。


(何だ!?)


 僕が下を向くと、息を切らした小鳥が泣きそうな顔で僕を見上げていた。


「良かった。またいなくなってしまったのかと思いました……」


(嗚呼……小鳥には申し訳ないことをしてしまったな)


 小鳥に目線を合わせる為、ゆっくりとしゃがみ込んだ。


「ごめんね。ちょっとお風呂に入りたかっただけなんだ。それより、僕に何か用があったんじゃないのかな?」


(朝ご飯にしては少し早いし……)


 目を擦りながら、小鳥は言った。


「は、はい! 至急特別会合室に!」


(やっぱりね、これからが正念場だ)


 国全体、世界全体への嘘。国の名誉を守る為の嘘。嘘に嘘を重ねなければならない。


「分かった……」


(きっと睦月達は驚くね。皆、僕に騙されてる。滑稽だな)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ