番外編 お勉強の時間
―自室 夜―
あれから数カ月、僕の生活は大きく変化しようとしていた。
「おい! 寝るな! ここの復習をするまで寝させねぇからなぁ!」
夢の世界に片足を突っ込んでいた僕の頭を叩いて、ゴンザレスはそこから引き戻す。
「ハッ……明日じゃ駄目かな? もう眠たくて……」
「あ? そんな生半可な気持ちで頭は良くなんねぇんだよ! 時間は金、いや金より大事だ。寝ている暇があったら勉強しろ!」
「寝なきゃ頭が回らな……い……」
夢の世界が僕を呼んでいる。寝たら、きっと楽になれる。最近ずっと勉強しかしていない、机と椅子と筆記用具が友達になりつつある。嫌いなことに時間を割くのは、精神にも肉体にも来る。どうせ、朝から勉強させられるのに。
「いいのか、それで!? 英国に行くのに、お前は会話が成り立たずコミュニティから除外され孤独に生き、陰で馬鹿にされ……」
「駄目だ! それだけは!」
眠りにつきかけていた頭が、危機を感じて目を覚ます。
「よろしい」
「はぁ……それにしても、驚いたよ。まさか、ゴンザレスがこんなにも乗り気になって勉強を教えてくれるとは」
「……お前の周りの人間は、基本的にお前を甘やかすからな。厳しいで御馴染みの薬師寺さんは、仕事でそれどころじゃないって感じだしな。だったら、俺の出番だろう? 幸いにも、俺はお前よりもずーっと頭も良くて、英語も出来る。まさに、最適な人間って訳よ」
「甘やかしてないよ」
「お前が眠り始めたら、優しく毛布をかける奴らのどこが甘やかしてねぇんだよ。そのせいで、お前の睡眠時間が増えただけだったぞ」
「二度寝に困ったら、勉強をすることにするよ」
「はぁ……」
ゴンザレスは、わざとらしくため息をついた。僕がゴンザレスに英語を教えて貰っている理由は、英国の学校で魔法について学ぶことにしたからだ。
しかし、これは一部に伝えた時の建前だ。本当は違う。忌まわしき技術の発祥の地である英国で情報収集をし、対策を考える。当時の事件のことも、恐らく向こうでなら十分に資料が残っているはず。
この身に起こったことを知る為に、僕は全てを隠して英国に行く。だが、それには大きな壁がある。それは、僕が向こうで使われている英語を理解出来ないということだ。
「僕の為を思ってやってくれてるのは、凄く有難いんだけどさ……言語を取得するのに一番楽なのは、その言語が使われている国に行くことなんでしょう? だったら、一々こんなに厳しくやらなくても……」
「そうだなぁ、基本的なことが出来てたらなぁ、お前が!」
そう言うと、ゴンザレスは僕の耳をつねった。
「いたたた! やめてよ! ちょっとした冗談、ジョークって奴!」
「覚えた言葉を使っても許さねぇからな! ほら、朝教えた単語の復習を……」
「あー、分かったよ! だから、耳を引っ張るのをやめて!」
ゴンザレスは、ようやく僕に耳から手を離す。
「……これ以上怠けたら、お前に成りすましてやんねぇからな」
「それは困るよ」
王である僕が、海外に行くにはゴンザレスの協力が必要不可欠だ。何もかも捨てて、普通の人間としてやるには僕の代わりに全てを背負ってくれる人が必要なのだ。それが出来るのは、ゴンザレスただ一人。
「君にしか出来ないことだ。今回は家族や大臣、一部の使用人も協力してくれる。僕の我が儘に付き合わせてしまっていることは本当に申し訳ないって思ってるんだ。だけど……」
「フン、冗談だ。ただ、マジでやらねぇと冗談も冗談じゃなくなるかもな。嘘も方便ってね」
「う……復習しようか」
僕は、目の前に置かれた頭が痛くなる量の英語が書いてある紙に目を落とす。見るだけで眠気が襲ってくるが、耐えなければ。そして、違和感なく英語を使いこなせるようになってみせる。支障なく、真実を知れるように――。
長い長いこの物語に、お付き合い頂きありがとうございました!
まさか、一年もこの物語を書くことになるとは思わなかったです。最初は本当に書きたい物語の序章的な感じで書き始めたつもりだったのに、気が付けばこんなことに…何故だ?
改稿が終わったら、物語の続きを新たに書いて出すつもりです。自分が全然満足していないし、納得していないので!
本来はそれが本編だったはずなんですけどね!これより長くなるのか、これよりも短くなるのかは不明ですが…
ともかく、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。また、付き合って頂けたら本当に光栄です。
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続編を書いてます!




