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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十三章 嘘を重ねて
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踊るように喧嘩をする

―茶の間 昼―

「アハハ……では、私はこれで」


 小鳥は、手を繋いだ僕達を見て苦笑を浮かべて去っていく。


「あぁ……」


 流石に、僕は我慢の限界だ。恥ずかしさで狂ってしまいそうだし、体の熱で自分が溶けてしまうのではという危機感すら感じてしまう。

 それに、そろそろ食い込んだ美月の指が、僕の手を木端微塵にしてしまう。


「美月、もういいでしょ? 十分、僕は過去に浸ったよ」

「顔真っ赤にして、苺みたいね」

「そうさせてるのは誰かなぁ……もう!」


 僕は自由の利く左手で、拘束された右手を解放しようと美月の手をつねる。


「痛い、酷い。許さない」


 美月は、助けに来た僕の左手も同じように拘束しようと手を掴んでくる。それを何とか払いのけて、左手は再び右手の救援に向かい、それを美月が阻止しようと……という子供じみたことをを繰り返していた時だった。


「何をしている、お前達」


 自身の専属使用人に連れられた父上が、いつの間にか僕らのそばにいた。子供のように戯れていた僕らを、冷たい視線で見つめている。


「あ……えっと……」


 突然のことで、僕は言葉が上手く出てこなかった。この状況の弁明をする為に、最適な言葉が分からなかったのだ。


「何故、お互いの手を握り合っているのだ。踊っているのかと思ったが……近くに来てみれば、踊るというより喧嘩……まさか、大人になってまでお互いの意思を最優先させようとぶつかり合い、その醜態を公衆の面前で晒しているのか?」


 父上の向ける視線が、さらに鋭くなっていく。それと同時に、周囲の空気が凍りついていくのを感じる。恐怖からだろうか、あんなに離したかった美月の手を握ってしまった。


「ふ~ん、茶の間の前で踊るのはいいんだ。なるほど、覚えておくわ」


 怯えている僕を後目に、美月は父上の言葉を軽くあしらった。


「いや、それも迷惑だ」

「あらあら、どうしたの? 皆でそんな所で立ち止まって」

「ずるいよ~皐月も入れて~」


 すると、そこに皐月を抱いた母上が現れる。母上はニコニコと微笑み、この独特な雰囲気を和ませてくれた。


「……まぁ、良い。ひさびさに皆で集まって食べるのだ。無駄話はこの辺にして、さっさと席に座ろう」


 ここで話していても仕方がないと思ったのか、父上は我先にと自身の席がある机の中心へと向かって行く。


「ひさびさ?」

「あぁ、言ってなかったわね。皆の顔がどんどん減っていくから、辛いって。あの人が。あ、内緒よ、これ。フフ、席に座りましょ」


 母上は僕と美月にだけ聞こえるように囁くと、まずは皐月を席に着かせた。そして、自身の席である父上の隣に歩く。


「素直じゃないのよ、父さんは。さて、巽。仲良く座りましょう」


 美月は気味の悪い引きつった笑みを浮かべ、僕を引っ張って席へと連れて行く。

 もはや、この恥ずかしさよりも父上に睨まれたという恐怖の方が勝っていた。


「はぁ……」

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