翌日の朝
―自室 朝―
全身が寒くて目が覚めた。起き上がって、自分の状況を確認するとベットの上でそのまま何もかけず、横になっていたようだ。
(通りで寒い訳だ。春とは言え、朝は少し寒いな。そういえば僕、薬飲んだっけ?)
貰った薬を探すと、ポケットの中に空になった透明な袋があった。記憶にはないが、ちゃんと飲んでいたらしい。
(薬を飲んで、そのままベットで寝たって感じか……)
時計を確認すると、朝七時。皆が忙しくなる時間だろう。今日は、休まなければならない。だから、布団の中に潜って再び瞼を閉じた。
しかし、一度目が覚めてしまうと中々寝れないもので、外の音に気が散ってしまう。寝るというのは、案外難しいものだ。
羊を数えてみたり、頭の中を無にしてみたりと出来る限りのことはやったのだが、目は完全に覚めてしまっているようだった。
だから、僕は、結局起きることにした。
身だしなみを整える為に、鏡の前に立つ。あんなにも、血で汚れていた顔は、元通りになっていた。
手や首、見える所を確認しても、大きな傷は完全になくなって、薄い痣程度になっている。
鏡の破片を握り過ぎてしまったせいで、大変なことになってしまっていた掌も、健康的な色に戻っていた。
(そういえば、こんな色だったっけか。凄いな、あの薬は。最初からあれをくれたら良かったのに、相当貴重な物なのか?)
そんなことを考えながら、髪を櫛を梳かした。久しぶりに梳かしたが、スーッと櫛は髪と髪の間を簡単にすり抜けた。僕の昔からの取柄は、髪が絡まないということくらいだ。何の自慢にもならないが。それでも髪を梳かすのは、何となく楽しい。
(そういえば僕お風呂に入ってない。不潔だな。入るか)
一応、自身を嗅いでみる。
「うわっ、臭い……」
血と汗の混じった臭いがした。早急にお風呂に入ろう。無理もない、ここ数日僕はお風呂に入っていないのだ。
お風呂は、この階にの突き当り真っ直ぐにある。温泉風に作られていて、色々最近綺麗に改装された。効能は知らない。
僕は、部屋の扉を開けて廊下に出る。もう既に結界はなかった。皐月の部屋と閏の部屋の間を通って、ゴンザレスの部屋の前を通る。
夜中、ゴンザレスは何故あんなに怒っていたのだろうか。僕を何度も出して、自身の弱さを言っていた。
弱いのは事実だけど、あの言い方はどこか自暴自棄になっているようにも感じた。
(僕のせいで、陸奥大臣とかにでも怒られたりしたかな。後で、謝っておくか)
正面に、お風呂が見えて来た。暖簾が掛かっていて、女湯と男湯に分かれている。
昔、美月との勝負で負けたことで、美月に一日中女装させられた記憶がある。お風呂も、無理矢理女湯の方に連れて行かれた記憶がある。
別に、僕ら家族以外このお風呂は使わないけど、あらぬ疑いを僕にかけられるかもしれないという恐怖。かと言って、逃げたらそれ以上に酷い目に合うという恐怖。
美月は、僕を人形か何かと勘違いしているんじゃないかと思っていた。
(はぁ、城のあらゆる場所を見るだけで心の傷が蘇る)
当然、男湯の暖簾の前に立つ。湯気が漏れ出していて、暖かな空気を感じる。
(数日振りのお風呂だ。綺麗に流そう)
僕は、足早に暖簾を潜った。




