表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
一章 変わらない世界
4/403

少女に与えられた道

―自室 夜―

 無理矢理進める手、思ってもない言葉で埋められていく空白の行。


(結びの挨拶を書いて……よし、完璧だ)


 僕は、んーっと伸びをして息を吐いた。そして、椅子にもたれかかる。綺麗ごとにお世辞、それを並べてなんとか書き終えた。

 コンコンと再び扉を叩く音がした。でも、今度は違う人物だ。この時間だから夕食だろう。


(ちょうど良く終わったみたいだ。一時は徹夜しなければと思ったよ)


「巽様。お夕食の準備が出来ました」

「嗚呼、今行く」



 僕は、手紙を封筒に入れて部屋から出る。僕を見ると、着物姿の少女は礼をした。着物を着ている使用人、ということはまだ見習い。


(僕がまだ小さかった頃は皆、着物だったっけ。色んな文化が取り入れられてからは、正式な使用人の服としては着られなくなってしまったけど、ちゃんと着ている人がいるっていうのは大事なことだ。文化と文化の両立、流石父上だ)


「どうかされましたか?」


 着物をじっと見ていたのを気付かれたようで、少女は首を傾げた。


「あ、いや、綺麗な着物だと思ってね」


 僕がそう言うと少女は、嬉しそうに小さく飛び上がった。


「ありがとうございます! 母からの贈り物なんです! これを着て頑張りなさいって!」

「ふふ、素晴らしいお母さんだ」

「はい! 将来は母のように立派な使用人になりたいです!」


 僕には、この少女がとてつもなく眩しく見える。決められた道を進むはずなのに、それを苦にすることなく受け入れて前向きに捉えている。

 僕がこれくらいの歳の時は、決められた将来に怯え、不安で押し潰されそうだったというのに。この国には職業の選択という自由はない。だから、なりたくなくてもなるしかないのだ。


「なれるさ、君なら。応援する」

「あ、ありがとうございます! 頑張ります! あ! その封筒……」


 少女は、ハッとした表情を浮かべる。僕の手にあった封筒に気付いたらしい。


「この手紙は、僕が出すから問題ないよ。それよりいい匂いだ。今日のご飯はなんだい?」

「はい! 今日の主菜は、西洋より輸入した牛のステーキと最高級のクラーケンを使用したお刺身です!」


(相変わらず凄い組み合わせだ。作りたいものを作るって感じだな。彼は)


「フフ、楽しみだ」

「はい! では、参りましょう!」


 少女が茶の間へと向かう為、僕を先導するように前を歩く。


(茶の間って言っても、もうすっかり洋な感じだけど)


 僕の部屋と茶の間は比較的近い位置にある。だから案内されなくても当然分かるが、それもまた使用人の仕事なのだから仕方ない。


「皆さん御揃いです! それでは良い時を!」


 少女は、深くお辞儀をすると、まだ何か仕事があるのか急いでどこかへ行ってしまった。


(大変だな。あんなに幼いのに)


 そして、部屋を覗くと皆が談笑をしていた。


(よし、行こう)


 僕は持っていた手紙を懐へと忍ばせ、家族のいる茶の間へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ