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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十三章 嘘を重ねて
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取り戻した感覚と失った感覚

―中庭 朝―

「っ!?」

「きゃぁっ!?」


 僕が中庭と到着したと同時に、小さい悲鳴が聞こえた。


「た、巽様!? どうして……」


 その悲鳴を上げたのは、小鳥だった。目の前に突然現れた僕に驚いたのだろう、無理もない。本当の所を言うと、僕も驚いている。

 別に城に戻ろうとした訳ではないのだ。武者達を待たせている宿屋に戻りたかった。こっそり山口村まで行ってしまった、そろそろ不信感を抱いている可能性がある。

 城に戻ってしまったのは、心に大人の小鳥から頼まれたことが、はっきりと刻まれてしまったことが影響しているのかもしれない。


(瞬間移動をする時は、しっかりと場所を考えないといけないな。というか……)


「あ、いや……アハハ」


 今、こうやって小鳥と何の問題もなく話せているということに驚いた。瞬間移動をしたら、体にそれなりに負担が伴う。今までもそうだった。

 何時間休んでも、呼吸が整わなかったりしたこともある。それなのに、僕は何ら問題なく小鳥の前に立ち、話をすることが出来ている。

 

「す、すみません。食事の準備があるので……」


(ん?)


 小鳥の様子がおかしいと感じた。驚いた後は、かなり気まずそうな様子だ。僕と視線を合わせようともしない。そういえば、小鳥と面と向かって話すのはいつぶりだろう。


「食事……ねぇ、良かったらでいいんだけど」


 あの時、僕は小鳥を傷付けた。どうしてあんなことをしてしまったのかは分からない。

 そして、並行世界でも僕は同じことをしてしまったようだった。


「え?」


 小鳥はすっかり怯え切った目を、僕に向ける。幼い彼女の心を深く傷付けてしまったこと、信頼を揺らがせてしまったこと、全て許されざる行為だ。僕はそのせめてもの償いとして、あることを小鳥に頼みたかったのだ。

 僕は小鳥の目線に合わせるようにして、しゃがみ込む。小鳥が一歩だけ、後退りしたのが分かる。僕は、小鳥の中で完全に恐怖の対象になったみたいだ。これ以上の恐怖を与えてしまわぬよう、なるべく優しい口調で言った。


「僕に――――」

***

―御霊村宿屋 朝―

 亜樹が料理を作る音、そして料理のいい匂いが玄関からも感じられる。いつの間にやら、匂いの感覚は元に戻っていた。


(お腹が空いたな)


 一か八か、心臓にかかる負担を覚悟して再び僕は瞬間移動を使用した。が、そんな心配は杞憂に終わった。動悸も息切れも眩暈も起こらない。

 山口村から城へ、城から御霊村へ、それなりに移動をした。流石に限界ではないかと思ったが、僕の体はこのように問題なく生命活動を続けている。


(これも……融合したお陰か。とんでもないな)


 そんなことを考えながら、僕は宿屋を出た。


「あ!」


 武者達が宿屋の前で待ち構えていて、僕を見るなり声を上げた。やはり、少し待ちくたびれていたみたいだ。


「ごめんごめん、少し話が長引いちゃって。帰ろう」

「はっ!」


 早く帰って、自室に戻ろう。そこでやっと僕は、小鳥に対して初めての償いが出来るのだから。

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