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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十三章 嘘を重ねて
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幸せと不幸

―山口村 朝―

 僕は気配を殺し、あの物置小屋と大差ない家を木陰から見つめていた。以前より、生活感が増していた。洗濯物が風になびいている。


(良かった……生きてる。良かった、本当に)


 干してある洗濯物の中には、男物と女物の服がある。それは、以前ここに来た時に二人が着ていた服だった。それにより、二人の無事を確認することが出来た。


(元気かな?)


 前、様子を見に行った時は東が何かしらの病気になっていた。全てを捨て、駆け落ちをした二人に薬など買うお金はなかったようで、困窮っぷりが伺えた。

 あの時、僕が換金出来る物を投げ入れたこと。そして、ホヨを使って換金出来る物を届け続けたことがこの結果を結んだと信じたい。


(顔を見れないかな? いや、でも余計なことをしたら見つかるかも。もう縁を切るって、関係ないって言ったのに。もう無事を確認出来たんだ……だけど、気になる)


 木陰で葛藤していた時だった。あの物置小屋の扉が開いた。


(あっ!)


 そこから出てきたのは、睦月だった。もはや、すっかりここでの生活に馴染んている。王家の雰囲気など微塵も感じない。

 ただ、美しさだけは変わらなかった。あの漆黒の髪も、以前よりくすんではいるが、十分に綺麗なままだった。


(距離がそう離れている訳じゃない。気付かれないようにしないと)


西(せい)! 畑行くよ~」


(せい?)


 聞き覚えない名前に、困惑した。が、すぐに意味を理解した。西と呼ばれて現れたのは、東だったからだ。


(なるほど……そういうことか。確かにむやみやたらに、本当の名前を使うのは怪しく見えかねない)


「気が早いなぁ、もうちょっとゆっくりして行けばいいのに」

「駄目駄目!」

「月さぁ……畑になってる奴をさっさと食べたいだけだろ? 相変わらず、食い意地だけは張ってるよなぁ。畑があって良かったぜ」


(睦月は月かぁ。結構そのまんまだな)


「何か言った?」


 睦月は、ジッと東の方を見つめている。この角度からでは睦月の表情は見ることが出来ないが、多分睨んでる。

 そんな脅迫をされた東は、顔を見る見るうちに青くしていく。この位置からだと、東の表情は完璧に伺える。


「いえ、何も……」


(可哀想に。すっかり尻に敷かれて……)


 立場は完全に対等になったはずなのに、主従関係は変わっていないように思える。東はすっかり小さくなって震えていた。


「そう、ならいいわ。それより、誰かに見られてる感じがしない?」


(うわっ、マズイな)


「そう? どこから?」


 東は気付いていないが、睦月は僕の視線を背中でも感じ取ったようだ。四方八方を見つめて、視線の正体を暴こうとしてくる。気配を殺していたつもりだったが、視線までは誤魔化せなかったようだ。


(どうしようどうしよう。下手に動けば見つかる……くそ、ああもう! 致し方ない!)


 僕は目を瞑り歯を食いしばって、城への瞬間移動の魔法を使った。

***

―睦月 山口村 朝―

「あれ……消えた」


 間違いなくこちら側に向けられていたはずの視線が、突然嘘のように消えた。それは敵意を含んだ物ではなかった。

 どちらかと言えば、保護者が優しく見守るものと一致していた。もしかしたら、と思ったのだが。


「ほら、絶対気のせいだって。怖いこと言うなよ。ね、行こうぜ」


 東はうちの腕を掴み、そのまま前へと進み始める。


(縁切ったしね……怒ってるよね。うちらの顔なんて見たくもないだろうし。我が儘言って困らせたしね。はぁ、色々考え過ぎて感覚がおかしくなってるのかも)


「はいはい~踊る大根出来てるかしら」

「引っこ抜いて踊れば完璧だ。まぁ、食べれればいいだろう? 月の場合」

「うるさ~い」


 今、この瞬間、うちは間違いなく幸せだ。巽に全ての不幸を背負わせたこと、これは許されることじゃない。

 いつか、何らかの方法で恩返しをする。時間がかかってしまうだろうけれど、必ず。

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