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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十三章 嘘を重ねて
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不思議な力

―御霊村裏山 朝―

 おぼつかぬ足取りで、この小さく細かい音色が紡ぐ音楽を聞きながら僕は歩いていた。


「こっち……なのか」


 音が僕を導いている。微かながら、導く音色が強くなっていくのが分かる。小鳥の言っていたことに間違いはなかったようだ。

 鳥族以外入ることが禁じられているこの場所にあるのなら、確かに見つからなくて当然だ。悪しき者の手に渡らなかったことが、唯一の救いか。


「小鳥……すまない」


 堪えても涙は止まらないし、拭いても涙は消えない。改めて実感する。僕は無垢なる少女の命を弄び、苦しめ、最終的に殺した。

 もし、僕が強ければこんなことにはならなかった。少女の未来を代償にしてしまった。並行世界の小鳥を不幸にしてしまった。だから、その罪の大きさに涙を流さずにはいられなかったのだ。


(小鳥だけじゃない。僕は沢山の人を……!)


 自然とペンダントを握る手に力が入る。こんな凶悪犯に、未来を進む権利など本来ないのに。


(また逃げる? いや、駄目だ。小鳥の全てを否定してしまう。あぁ、そうだ……僕は罪から逃げるべきじゃないんだ。背負うんだ。それが小鳥への恩返しであり、罪滅ぼし。僕の生涯をかけて)


 そんなことを考えて歩いている間に、いつの間にか僕は見慣れぬ場所に立っていた。

 山頂にいることに変わりはないことは明らかだが、先ほどの開けた場所とは真逆だ。木が生い茂り、草も鬱陶しいくらいに生えている。そして、そこに開かずの扉はあった。


「あった……」


 音は、最初よりは明らかに強くなっていた。まるで、自身の存在を高らかと示すようだ。

 開かずの扉は、木に立てかけてあった。あの爆発の勢いでここまで来たのだ、こんなに綺麗に扉が立つことはないだろう。小鳥が見つけた時に、木に立てかけたと考えるのが自然だ。


(相変わらず綺麗な状態だね)


 あれほどの爆発で、よくもまぁ何一つ壊れずにいられたものだ。しかも、新品同然の綺麗さだ。塔は木端微塵になってしまったというのに。

 まさかとは思うが、扉をつければ何でも異世界へと繋がる管のようになってしまうのだろうか。

 

(昔から扉だけは綺麗だったけど、衝撃にも強いんだね)


 あの塔は野ざらしの状態だった。そして、気が遠くなりそうなくらい長い年月あそこに立っていた。雨の日も、風の日も、雪の日も。

 塔は古びていっても、扉だけはずっと綺麗なまま。木造なのに、腐る気配すらない。この扉は僕らでは説明出来ない、不思議な力が働いている。だからこそ、堂々と今の時代も存在し続けているのだ。


(さて、持って帰ろう。カラスに見つけられてしまったら困るし。ゴンザレスが帰りやすくなるようにもしないと)


 僕は立てかけてある扉に向かって、手を伸ばす。すると、その扉はあっという間に姿を消した。問題なく魔法も使えるみたいだ。

 同時にペンダントから鳴り響く音もとまった。役目は終えたのだろう。


(……あ、そうだ、せっかく外に出たついで。行ってみよう)


 脳裏にふと、睦月と東の姿がよぎったのだ。あの精神世界で見た幻が、どうか現実でないことを祈りたい。無事で生きていることを、祈りたい。

 僕はペンダントを首にかける。そして、魔法を使ってゆっくりと下山した。僕は目指す、睦月達がいる場所へ。

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