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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十二章 掴んだ未来
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僕が守るべきもの

―御霊村裏山 朝―

 小鳥は大きく深呼吸をし、口を開く。


「少し難しいお話になるかもしれませんが……出来る限り噛み砕いて説明しようと思います。まずは、この世界や異世界、そして並行世界の仕組みについて」

「ん? 異世界と並行世界とは意味が違うのかい?」

「……区別をつける為に、私はそう差を設けています。では、想像して下さい。太い幹を持った大樹を」


 僕は言われた通り、大樹を想像する。頭の中の絵に集中しやすくする為、目を閉じて。


(太い幹……大樹か。実物は見たことがないけど、絵本でなら何度か見たことがあるな。森の王みたいに、悠々とどっしりとそこに存在感を示している感じかな)


 頭の中に、大人二人が手を伸ばしても余裕があるくらいの幹を持った木が現れる。我ながら、素早く完璧に想像出来たようだ。


「嗚呼、話を続けてくれ」

「その太い幹があらゆる世界を繋げているものだと思って下さい。その幹こそが世界の共通点」

「……それが開かずの扉かい?」

「えぇ、その通りです。異世界や並行世界を繋ぐ共通点が、私達の目の前に姿を現した物……それがあの開かずの扉です」


 僕は、そんなとんでもない物を浅はかな考えで吹き飛ばしてしまった。どこに行ってしまったのか、何にしても捜索をしなくてはならない。

 今の今まで、吹き飛んで来たなどという報告を受けていないことから人の気のない場所に行ってしまったか、その存在と価値を知る者が隠し持っているか、恐らくそのどちらかだろう。


「僕は完全にやらかしてしまったという訳か。そんな価値のある物を……知っていたのに。あの扉の価値を」

「大丈夫ですよ、それなら」

「何故、そうと言い切れる?」

「……ウフフ、それは、この話が全て終わってからにしましょう。では、続きです。その太い幹から沢山の数の太い枝が出ているのを想像して下さい」

「ん? 分かった……」


 太い幹に生える太い枝を想像する。なんて力強い木だろうか。全て僕の想像だが、こんな木があったら御神木になること間違いなしだ。


「その幹から出た枝が――」

「この世界を含む、様々な世界ってことかな。その中にはゴンザレスの元々住んでいた世界もある。今まで、君が協力を仰いできた人々の世界も勿論。合ってる?」

「えぇ、中々鋭いですね」

「想像してるからかな? それとも、今日は冴えてるのかも」

「ウフフ……流石は巽様ですね。私は、自分達のいない枝を異世界と呼ぶことにしています」

「では、並行世界は?」

「太い枝から出た細い枝を想像して下さい……それは全ての太い枝に無数に存在します。そして、その太い枝であった大きな選択によって生まれていきます。それらは、とても脆く細い。だからこそ、ちょっとしたことで壊れやすいんです」


 ゴンザレスが言っていた、僕の不都合な事実を隠す為に歪められた常識のことを。ゴンザレスの世界にも影響を与えてしまうのだとしたら、間違いなくその脆い世界は壊れているだろう。


「例えばそうですね……私が今まで救えなかった沢山のこの世界、巽様が救われず、壊れたりしてしまった世界達のことを並行世界と呼んでいます。この世界と大きな違いはないんです。人も歴史も、文化も。違いは、何を選択したかしなかったか……それだけなんです。でも、それが世界に影響を与えている……どうですかね? 分かりますか?」

「あぁ……分かる」


 話を聞いて、一つ分かったことがある。この世界も異世界も元々一つだったということだ。だからこそ、所々に共通点が存在するのだ。それは、僕とゴンザレスだけで十分証明出来ることだ。

 異世界も並行世界も、元々はたった一つの世界だった。何かしらをきっかけにして、沢山の世界が生まれた……そう考えていいかもしれない。僕は目を開けて、想像するのをやめた。


「一つ質問がある。ゴンザレスが言っていたことで」

「その辺までは聞こえませんでしたね……何でしょう?」

「僕のこの目が常識になった……って言うのは本当だね?」

「えぇ、この世界が巽様を基準にすることで均衡を保ったのです。巽様が得てしまった力は、元々のこの世界の基準を遥かに超えてしまった。当然です、元々持っていた巽様の力と技術によって融合された力が混ざってしまったんですから。壊れてしまうことを、この世界は怯えていたんです。絶対的にこの世界が壊れてしまうくらいなら、理と常識を変える。守る為に。多少の危険を背負ってでも。僅かな可能性を信じて」

「そうか……強く……いや、それはいい。だったら、どうして君達は――」

「私達は、元々この世界に住んでいた訳ではないですからね。ゴンザレスは異世界、私は並行世界から……この世界の常識には馴染めないんです」

「なるほど……難しいね」

「まぁ、この辺はあまり理解しなくてもいいと思います。困ることではないですし」

「そうだね。僕にとって大切なのは、この世界にあるこの国と国民のことだけだから……」


 改めて、僕はこの広がる景色を見た。ここから見える景色は、僕の守るべき国の一部。こんなにも広く大きい国の全貌を、僕は知らない。僕が知っているのは、今まで見た景色だけだ。僕はあまりにも知らな過ぎる。


(この国を知らずして、何を守れる? 僕は無知だ。それで王を語るなど、傲慢だ。そんなの誰にでもなれる。僕でなければ、意味がいないと認識して貰いたい。僕自身の力で……)


「王として……そして、この国に生まれた者として僕は守るよ。もう逃げたりしない。一度背負ったことだ。責任がある。自身の力で父上を超える。それで皆の信用を得て、評価を貰いたい。だから、以前僕が皆に暗示をかけた言葉を取り消すにはどうしたらいい?」

「もう一つの私の話したかったことと一致していますね。簡単ですよ、それは」


 小鳥は嬉しそうな声色で、そう言った。

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