カラス
―御霊村裏山 朝―
「……贖罪?」
まさか、そんな単語が小鳥から出るとは思わなかった。
「えぇ、我が鳥族が背負うべき宿命……許されることのない罪。それへの償いです。もし、あの過ちをカラスが犯さなければ……」
「カラス? それは……」
「カラスの羽を持つ者、またそれに姿を変えることが出来る者達のことを我々の中ではそう言います。勿論、普通のカラスのことも指しますが。二つの意味を持っているのです」
「なるほどね。それで、そのカラスが何をやったんだい?」
僕は、カラスの羽を持つ鳥族を見たことがない。国にいるのは燕や鷹、雀であろう羽を持った鳥族がほとんどだからだ。普通のゴミを漁ったりするカラスならよく見るが。
「海外から禁忌の技術を運んだのです。当時、それは海外……英国で混乱をもたらしていた技術でした。それを面白半分で……この遠く離れた島に運んだのです」
すると、小鳥は僕の方へと向いた。
「父は、そのカラス達に罰を与えようとしたそうです。ですが、彼らは反発しました。そして、陸に住む人間達が知らない遥か上空で戦争が起こったのです。カラスの一族と父に賛同する多くの一族の戦力の差は明らかでした。すぐに勝負は決し、カラス達はこの日本から逃げました。ですが、残党がひっそりと息を潜めていたのかもしれません。でなければ……今この時代に、この技術を知る者などいないはずなのですから」
十六夜に禍々しい技術を教えた者が、この国か外国のどこかにいるという可能性。また、十六夜が海外へと逃亡を図ったのは、深い所までその技術を取得する為だったのかもしれない。
もし、僕があの時ちゃんと十六夜を罰することが出来ていれば、こんなことにまではならなかったのだろう。罪悪感がますます増していく。信じる人を間違えていたのだ、あの頃の僕は。
「十六夜がそのカラスから技術を聞き、僕をああしたんだね。そして、英国へ行って更なる技術の追求をしたってことか……情けないよ。いいように利用されてさ」
「巽様は悪くありません。悪いのは、巽様を利用した彼です」
「そう言って貰えると、少しだけ楽になるよ」
(そんなことはない……僕だって悪い。何なら、ここまでのことをやった僕の方が罪深いかもしれないな)
冬の冷たい風が頬を撫でる。冬は嫌いだ。ただ寒いだけなのだから。しかも、山頂なのだから余計寒い。
「……あぁ、ごめん。話が少し逸れてしまったね。それで、そのカラスが面白半分で最初にその技術の毒牙にかけたのが昔、御霊村を作った人達ってことかな?」
「はい。これで、迫害を受けるのはおかしい話です。ですから鳥族は、彼らが少しでも安心して生活出来るように人里から離れた地に住むよう提案したそうです。それがあの伝説の一部です」
毒牙にかけられた人達は、きっと僕と同じ気持ちだっただろう。どれだけ苦しかったか。どれだけ恐ろしかったか。どれだけ孤独だったか。
だが、僕と違うのは仲間を見つけられたことだ。全てを分かり合える人達と手を取り合えたことだ。孤独を解決出来たことだ。
「そうかい……結局、カラスと呼ばれる鳥族をどうにかするしかなさそうだ。技術のことを深く知るには、海外……気が遠くなる」
「申し訳ございません、私達が不甲斐ないばかりにこんな……」
「いやいや! 君達を責めてる訳ではないよ」
俯く小鳥の頭を僕は優しく撫でた。