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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十二章 掴んだ未来
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未熟者

―宿屋 朝―

「どうして、そんなことが? お前の世界には魔法はないんだろう?」

「ないな。二次元には溢れてるけど。現実世界には一切存在しない。夢物語。だからこそ、俺は心臓がとまってしまいそうなくらい驚いた。驚きの二段構えみたいな感じだった。あ、死ぬなって思った瞬間に、家に戻ってんだもん。でもまぁ、最初は死んだ後のなんやかんやだと思ってた。家に未練があったから、ここに戻されたんだってね。でも、それもまた何か違うような気がしてきてさ……」

「それは何故?」

「だって俺が父さんと揉めたのは、昼だったからな。でも、外も家も暗かった。夜みたいだった。家も不気味なほど静まり返ってた。何かが絶対におかしいって思った時だったよ。究極の驚き砲が発射された」


 ゴンザレスは、目に涙を溜めたまま薄っすらと笑みを浮かべる。


「家にあるクローゼットが突然開いたと思ったら、そこから傷だらけの女……小鳥が現れたんだ」


 僕は、ここで初めてゴンザレスと小鳥の出会いを知った。そういえば、出会った頃も何となく言っていたような気もする。

 が、ここまで詳しくはなかった。というか、詳しいことは言えないと教えて貰えなかったのだ。ここに来て、知ることになるとは思わなかった。


「それが初めての出会いか?」

「いや……う~ん、俺は小鳥と会ったことがある。でも、そのことをあいつが覚えてなかった。俺はその場ですぐ気付いたんだけどなぁ、悲しい。今も気付いてないみたいでさ、辛い」

「いつ出会ったんだ?」

「小さい頃、迷子になった時。もう大人だったけど」

「それって、こっちの世界の小鳥なのか?」

「小鳥……いや、鳥族はお前らの世界にしか存在しない。それは、小鳥から聞いたことだ。間違いはない」

「そうか……それは残念だったな」


 何と声をかけてあげるべきか、中途半端な同情はゴンザレスの怒りに触れてしまう気がした。だから、僕は慰める道を選択した。

 だが、それは間違いだったようだ。


「あ? 煽ってんのか」


 ゴンザレスは涙を浮かべ、微かに笑いながら眉毛を吊り上げている。感情が一つずつ付け足されていっているようで、僕は面白かった。


「煽ってないよ」

「こっちが煽られてるって感じたら、それはもう煽りなんだよ!」

「そうなのか……肝に銘じておくよ」

「思ってもないだろ。はぁ、まあいい。で、話の続きな。とにかく俺は色んな意味でてんやわんやになってた。で、あんまり理解してないのに気が付いたら異世界行きを了承してた。つまり、ノリと勢いでここに来てしまったんだ、俺は。ここに来て、少し経ってから冷静になれた。こんなこと大事だとはマジで思ってなくて……ハハ、結構頑張ったよな、俺」


 勢いだけで決められるのは、凄いと思う。というか、その前まで発狂して死にかけてたのに、小鳥と出会っただけでそこまでのことが流れるように決まり、異世界に行くことを決めたのもおかしいと思う。


「それで……全て終わった訳だが。お前は帰らないのか。世界があるとかないとかは、まず置いといて。帰るか帰らないか」

「……それを聞くか」

「人に逃げるなとか、逃げたことを後悔してるとか言っておいて、ここでも結局逃げるのか? まだ選択は変えられる。お前がそう教えてくれた。もし、お前がその気なら、僕は開かずの扉を国を挙げて探すが」

「そうなんだよなぁ。は~……特大ブーメラン。いと痛し」

「さっきから思っているんだが、僕にも分かる言葉をもう少し使って欲しい」

「勉強しろ」


 ゴンザレスは、天を仰いだ。


「……する予定だよ」

「馬鹿が国を治めるのはヤバイ。馬鹿は何をしでかすか分からん。今は皆慕ってくれているが、いつか今の王様俺らより馬鹿らしいぜって噂が馬鹿真面目な奴らの間で広がり――」

「馬鹿馬鹿うるさいなぁ! 勉強くらいしてやるよ! 海外でも何でも言ってやる! 僕を馬鹿に出来るのも今の間だな!」

「ほ~ん……よし、俺らの話は終わりだ。おーい、小鳥!」


 見事に話を逸らされてしまった。しかも、今一番触れて欲しくないことを盛大に煽られて、怒りに任せた発言をしてしまった。僕は本当に成長していない。また、掌の上で踊らされている。

 呼ばれた小鳥が、襖をあけて部屋に入ってくる。話が聞こえていたのか、苦笑いを浮かべていた。


「じゃ、俺は行くか……また女装で」


 そういえば、いつの間にかゴンザレスの格好が戻っていた。


「美月の所にか?」

「おうよ。色々話があるから」

「そうか、なら女装は必須になるね。何をしたのかは分からないけど……ハハ、哀れだね」

「もし、しなかったらどうなる」

「命が有限でないことを恨みたくなるんじゃない、僕らの場合」

「ハハ……ハハハ」


 ゴンザレスは引きつった笑みを浮かべておぼつかない足取りで、そのまま部屋から出て行った。


(本当に何をしたんだ。罰……げーむって)

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