衝撃の言葉
―宿屋 朝―
「何だよ、急に大声出して」
ゴンザレスは、眉をひそめる。
「怒らせたらどうするんだよ……」
僕は、亜樹に聞こえてしまわないよう小声でそう言った。
「あいつはいつもキレてるよ。それに、俺はこの宿屋の為を思ってだな……てか、あいつはお前の前では大分猫被ってんな……」
ゴンザレスは、少し不満げにそう呟いた。
「まぁ、いいよ。険悪な雰囲気にならなくて良かった。それで? わざわざここまで呼び出してまでの要件って何?」
城にいては何かしらの危険が伴うから、僕はここに呼ばれたのだろう。もし、大したことがなかったらゴンザレスを殴らずにはいられない。僕だって暇じゃない。
「そんな怪訝そうな顔すんなよ。さ、俺達の拠点はここにある」
ゴンザレスは微笑を浮かべながら、近くにあった襖を勢い良く開けた。
「わぁ……」
思わず声が出た。目の前にあるのは、和だけで包まれた光景。今や、洋と和は一体となり同化している。融合し、人々の生活に馴染んでいる。しかし、ここは違う。
僕は、和そのものが単体で存在している場所をひさしぶりに見て感動したのだ。灯りも、幼少期よく見た行灯だ。今は、朝である為、障子の向こうから日が差している。が、夜になれば頼りになる灯りは行灯だけであろう。
座布団、布団に畳……懐かしさで胸が一杯だ。ここ以外で和が失われている訳でもないが、ここだけ時がとまっているかのようで嬉しかった。
「どした? そんなに目を輝かせて」
「いや、何でもないよ」
「……? そうか。じゃ、入れ」
「うん」
ゴンザレスは先に僕に入るように促した。珍しい行動に僕は疑問を覚えたが、その厚意に感謝しながら入室した。部屋に入って、靴を脱ぐ。
まず感じたのは、畳の匂い。僕はこの匂いが好きだ。心を和ませてくれる。
「お待ちしておりました、巽様」
部屋の死角から小鳥が現れる。僕を救くい、未来をくれた恩人。ありがとう、と感謝の言葉をかけるだけでは足りない気もするくらいだ。
「あぁ……えっと――」
「小鳥、ちょっと先にこいつと話させてくれねぇか?」
僕の言葉を遮って、ゴンザレスは言った。すると、小鳥は優しく微笑み、無言で頷いた。
「え? お前と?」
「言ったじゃねぇか、男同士で話があるって。すぐ終わることだから。頼むわ」
「部屋の外で待っております。終わったら、また少し時間を下さいね。巽様」
小鳥はそれだけ言うと部屋を出て、開けっ放しになっていた襖をゆっくりと閉めた。
「ありがてぇ……よし、じゃあそこに座れよ」
ゴンザレスは、僕に一番近い方の座布団を指差した。相当使い古した物のようだ。布と布が繋ぎ合わされている。伝統的な模様が沢山あしらわれ、色も様々、正に混沌とした仕上がりだ。
(何か……結構雑?)
糸がほつれているのが、立っている僕の位置からでもよく見える。
(苦手なのか、忙しいのか……でも、頑張ってるんだろうな)
僕は亜樹に心で感謝しながら、座布団に座った。ゴンザレスも、僕が座ったのを見て座布団に座る。
「さて、長ったらしい前置きはしない。簡潔に言うぞ。お前は……死んだ」