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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十二章 掴んだ未来
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再会、それは

―自室 朝―

 狭間に完全に吸い込まれた後、気が付くといつも通りの僕の見慣れた部屋のベットで寝転んでいた。


「元に戻って……るのか?」


 僕は、布団の中にあった両手を恐る恐る出した。すると、あの毛に覆われてしまっていた手が、人間らしい手をすっかり取り戻していた。

 何とも言えない幸福感と安心感が、心の奥底から溢れ出る。


(ん?)


 この幸せに浸って少ししてから、鋭い視線を感じた。僕の体を貫かんとせんばかりの視線が扉の方から伝わってくる。その視線のする方へ、顔を向けた。


「へっ!?」


 なんと、そこには侍女服を着て、黒髪のカツラをつけたゴンザレスが邪悪な気を出しながら腕を組み、鬼ような形相で僕を見下ろしていた。


「ゴンザレス!? どうしたの、その格好!」

「……こんなことをさせる奴は、一人しかいねぇ」

「ちょっと、まだ罰ゲームは終わってない。ちゃんとやってよ」


 懐かしい声だ。その声は、窓の方から聞こえた。僕は身を起こし、急いでそちら側を向いた。


「美月……!」


 気が付いたら、僕は美月に抱き着いていた。


「え、何。超気持ち悪い」

「良かった……本当に良かった」


 僕の呪いで、国が平和を取り戻すまで眠りにつくことになった美月。その呪いが解け、目覚めたということは間違いなく僕は元に戻ったのだ。

 それに、十六夜も消えた。この国に差し迫る脅威が消え去ったということを美月が証明してくれたのだ。


「ちょっと、巽。いい加減にしないと、殴るわよ」


 美月は、拳を作って僕の頬を力強く殴った。その姿は、女性とは程遠い。


「痛いっ! もう殴ったじゃないか!」


 しかし、今はその姿と殴られた痛みさえも懐かしい。元はと言えば、僕が僕自身から奪ったこと。懐かしさなど感じる資格はないのかもしれない。


「だから、殴るって言ったじゃない」


 美月は悪びれる様子もなく、相変わらずの真顔で僕を見据えた。仕方なく、僕は美月と距離を取る。


「あの~仲睦まじくしてるとこ申し訳ないんすけどぉ、俺ずっとこの格好をしていたくないんですよ」


 少し呆れた表情で、ゴンザレスが僕らを見ていた。


「駄目よ、それは罰ゲーム。今日一日やって貰うわ」

「はぁぁ!?」


 ゴンザレスが大股を開き、暴れ叫ぶ。女性の格好でその行為は、少々問題がある気がする。


「もう、女の子らしくして」

「ふっざけんな! こんな屈辱もう耐えられるかぁぁぁ!」

「まぁまぁ、落ち着いて」


 ドタバタと両足を何度も踏み鳴らし、暴れまわるゴンザレスをなだめた。


「……チッ」


 苛立ちを隠し切れてはいないが、何とかその言葉で暴れるのはやめてくれた。


「というか……何が一体どうなってるの?」

「その件について、後で話がある」

「何、何の話」


 僕らの会話の内容についていけない美月が、理解しようと話に入り込んでくる。


(そういえば、美月は覚えていないのかな。眠る前、真実を言おうとしてたけど。そんな素振りは一切ないし……)


「男同士の会話だから、絶対に言わねぇ!」


 ゴンザレスは、舌を出し挑発する。


「や、やめときなよ」


 美月を挑発すると、倍になって帰って来るのだ。浅はかに馬鹿にしても、煽ってもいけない。美月は感情が皆無であるため、それを感じる取ることが難しい分大変だ。


「あいつとあそこで待ってる。そこで色々話す」


 それだけ言うと、ゴンザレスは女装をしたまま姿を消した。


「あいつとあそこって、どこなの」


 興味津々に美月が近付いてくる。


(あいつ……小鳥か? あそこ……僕らが知ってる場所で、尚且つ美月の干渉を受けにくい場所は御霊村だろうか)


「フフ、男同士のことだから」


 僕は人差し指を自身の口に当てて、言えないということを強調した。美月の目つきが少し鋭くなったが、こればかりは致し方のないことだ。


「あ、言い忘れてたよ。おはよう、美月」


 美月にとっては短い眠りだったのかもしれない。いつも通り、身の疲れを癒すための就寝と大差ない。しかし、実際はそうではない。あまりに長い時間、美月は眠り続けていた。

 本当なら、もっと話したい。これは、再会と一緒なのだ。本来なら、叶わなかったことなのだから。


「ん……おはよう。変なの」


 美月は腕を組み、小さく首を傾げる。


「変じゃない、僕はもう行くよ。あまり部屋で変なことしないでよ。もういい年した大人なんだから」


 僕は美月に背を向け、歩きながらそう言った。


「一番の餓鬼が何を言ってるんだか」


 少しイラッとしたが、気にしている暇はない。僕は取っ手を引っ張り、扉を開けた。


(行くか……)


 僕は知らなくてはならない。僕も知らない真実を。

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