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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十一章 精神世界
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背後からの笑い声

―精神世界 ?―

 ゴンザレスは、僕に手を差し出す。


「え?」

「え? じゃねぇよ。ここから出るって、たった今決まったことだろうがよ」

「手を掴まないと駄目なの?」

「脱出時に何か起こった場合に、離れ離れだと対処出来ねぇだろうが。途中で、お前が心変わりしても有無を言わさねぇからな」

「分かったよ……というか、逃げないよ」


 仕方なく、僕は差し出された手を握った。ここに来てまで逃げたりはしないし、そもそもそこまで往生際は悪くない。そこまで僕は信用がないのだろうか。


「僕が嘘つきだから……こんなことを……」


 思ったことが、すぐに口から出てしまう。気を付けていても、思ってしまうのでとめられない。


「は? 何? 聞こえなかった」


 聞き取れなかったようだ。これは、不幸中の幸いだ。僕はホッと撫で下ろした。


「いや、気にしないでくれ。心の声が勝手に漏れた。大したことじゃない」

「あっそう、じゃ、行くぞ。こっちも急いでるからな。駄弁り過ぎたぜ。しっかり掴んどけよ!」


 そのことに対して追及せず、ゴンザレスは上を向いた。僕も上を見てみたが、やはり出口らしきものは一つもない。ただ灰色の淀んだ空間が広がっているだけ。


「嗚呼……」


 僕の返事を確認するや否や、ゴンザレスはその場でしゃがみ込み、すぐさま立ち上がった。行為的には、ただの一回の屈伸だった。

 だが、普通とはあり得ない現象が起こった。


「うわぁぁぁ!?」

「ひゃっはー!」


 勢い良く上昇したのだ。僕の経験で例えるなら、箒で上に急上昇した時と似ていた。風の切る音が耳元で聞こえる感じといい、景色が一瞬で移り変わっていく感じが正にそれだった。

 そう述べてみたが、ここは景色がほぼ同じである為、元々そんなに変わりない所だが。とにかくここで手を離した場合、この現象が落下時に起こる。


「ひぃっ……」


 そう考えると寒気がした。そもそも精神世界であるし、僕には死がないことは分かっていても、恐怖は拭えない。


「あ? 何? もしかして怖いのかよ」


 ゴンザレスは上を向いたままの体勢で、茶化すように言った。


「そ、そんな訳ない!」

「そうかぁ? 理由もなく、俺の手を急にギュッって力強く握ったのか? ま、女の子じゃねぇから死ぬほどキモイだけだけど……」

「うるさいなぁ! 手を離すぞ!」

「手を離したら、お前が困るんじゃないんですかぁ? 怖いくせにさぁ! ハハハハハ!」

「うるさいうるさいうるさい! 黙れ!」


 図星だった。落ちるのが怖いから、ゴンザレスを握る手が自然と強くなってしまったのだ。ゴンザレスの表情は見えなくても、何となく悟れる。想像だけでも腹が立ってくるくらいだ。


「てかさ、こんなファンタジー……いや、魔法を使う世界に住んでてこれが怖いってどうなのよ? よく空飛んでるじゃねぇか」

「自分自身でどうにかしにくいのは……怖っ、怖い訳じゃないけど、危険じゃないか。僕じゃない誰かが使う魔法なんて、僕がどうしようもないじゃないか!」


 と、僕は目を瞑りながら答えた。このままだと、精神世界で気を失ってしまいそうだったからだ。


「はいはい、分かったよ~。お、やっと出口だぜ~。にしても、帰りたいって思った瞬間に、体が恐ろしいくらいに軽くなって鳥のように飛べるなんてすげぇな。心の声駄々洩れもこれで終わりかぁ!」


 ゴンザレスは、明るい声でそう言った。それを聞いて、僕は恐る恐る目を開けた。


「あぁ……!」


 とても、眩い光だった。目が痛くなるくらい。思わず、僕は目を細めた。


「かんにそ~♪」


 その光の先から、微かながら聞き覚えのある歌声も聞こえた。その歌声を聞いても、今までとは違いちっとも苦しくはならなかった。


「良かった……」


 ゴンザレスが、そう囁くように呟いた。その声には、温かさがあった。


「よっしゃあ! 帰るぞぉ!」

「うわっ!」


 光に向かって、さらに急上昇した。あまりに痛い光で、僕は再び目を閉じた。歌声も大きくなる。その瞬間だった。


「フフ……」


 背後から、あいつの笑い声が聞こえたのは。

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