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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十一章 精神世界
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公明正大

―精神世界 ?―

「――はっ!」


 話の途中、突然ゴンザレスが何かを思い出しかのように素早く顔を上げた。


「急になんだ!?」

「こんな呑気にお話なんてしてる場合じゃねぇんだよ、俺達は!」

「そうだったね」


 他愛もないその時間は、正直とても楽しかった。同い年くらいの人間と、対等に話す機会などほとんどなかった僕にとっては。少し文句をつけるとするなら、その相手が僕であることくらい。


「話が随分とずれちまったが……本題に入るか、さ、俺を説得してみろよ」

「……分かった。唐突過ぎるけど、大きな選択になることみたいだから、ちゃんとやらせて貰うよ」


 自身の中にある複雑な思いを、全てなくす為にも必要なことだろう。


「おう、俺は公明正大だ。安心して本心を言え」

「嗚呼……僕はもう誰にも迷惑をかけたくない。僕は沢山の人を巻き込んでしまった。こっちの世界の人だけじゃなくて、もう一つの世界に住むお前にもだ。小鳥だって……人生の時間を奪ってしまった。きっと、僕はこれからも迷惑をかけ続ける。僕は見熟過ぎる。意思も弱い。僕は挫折ばかりだった。目標を果たせたことなんて、ほとんどない。もう誰にも迷惑をかけない為にも、僕はここで消える。お前が僕になればいい。そして、閏をいずれ王にして……お前は元の世界に帰る。それでいいんだ。小鳥には申し訳ないけど……」

「言いたいことはそれだけか?」

「え?」


 ゴンザレスは、やれやれと首を振った。そして、力強く僕を見つめて言う。


「迷惑をかけない人間なんていねぇ。迷惑をかけて当たり前だ。お互い様なんだよ。迷惑をかけて、かけられて生きてる。まぁ、ぶっちゃけお前のかけた迷惑はでかい。でも、それ以上に迷惑なのは、お前が逃げようとしていることだ。迷惑をかけまいとしている行動が、皮肉にも一番迷惑になってる。あ、あと一つ言うならさ……俺も小鳥も、お前の父さんだってお前に迷惑かけてるだろうよ。迷惑云云かんぬんで、お前がここから出ねぇってのは認められないな」


 それを言われて、色々思い返してみた。ゴンザレスが、謎の石に操られていたことで僕は非常に苦労した。元々大きかった不快感が増大した。

 小鳥はすぐに誤解するから、それも大変だった。父上は、中々認めてくれないから僕はずっと大変だった。


「まぁ、そうなのかな。はぁ……じゃあ、僕はどこにいても迷惑なのか」

「ここにいれば、もっと迷惑だ。世界も人も、夢も思いも全部消える。苦労も歴史も、積み重ねてきたことも全て。お前はお前自身の努力さえも塵にしようとしている。お前の行動は、お前自身にも迷惑をかける。過去のお前に。幼い頃から頑張って来たんだろ? 認めて貰う為に……それが全部消えるんだぞ? こんな悲しいことはない」

「あー! もう迷惑迷惑迷惑ってうるさいなぁ!」


 ゴンザレスの言葉は全て、鋭く突き刺さった。僕の選択は、全てを無駄にする迷惑な行為。もし、ここで戻らなければ、今まで以上の迷惑をかけてしまうことになるらしい。

 ましてや、過去にまで迷惑をかけることになるなんて言われると、返す言葉もない。


「だってそうだし」

「……じゃあ、帰るよ。君がそんなにも言うのなら、僕はお前を信じる。もし、嘘だったら……こっちにいる方が迷惑にならなかったら、僕はあらゆる手段を使ってでも消えてやる。この世界と共に」

「ほ~言うねぇ。しかも、ちょっとヤケ糞になってね? てか、そもそも俺は公明正大なのになぁ」


 素直になれなかった。ゴンザレスに負けてしまったような気がして、悔しかったのだ。

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