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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十一章 精神世界
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影武者の過去

―精神世界 ?―

 目の前のこの光景は、まるで今起こっているのではないかと錯覚してしまう。しかし、違う。何故なら、ここは僕の精神世界だから。それに、ここにはゴンザレスと僕しかいないのだから。

 そもそも、この光景の中の二人の服装や家具には見慣れない物も多くある。だから、これは全てゴンザレスの記憶だろう。


『親に対する態度とか、今更もうどうでもいいわ。で、どうして急に俺を部屋から無理矢理連れ出した訳? あー、もしかしてだけどさぁ、そろそろ世間の皆様がうるさくなってきた頃かな? そうだよねぇ、じゃないと父さんがわざわざ俺と面と向かって話したりするはずもないよなぁ。どんな風に言われたのかなぁ? ハハハハハ!』


 ゴンザレスは、わざとらしく大袈裟に腹を抱えて笑い出す。それは、明らかな挑発だった。


『いい加減にしろ!』


 父上は拳を作って、力一杯にゴンザレスの顔を殴った。鈍い音が響いたが、ゴンザレスは片手で頬を押さえながらも笑みを作り続けていた。


『いい年して大学にも行かず、家のことを手伝う訳でもない。母さん達にも迷惑と心配をかけていることにも、気付いていないのか!』


 そして、父上はゴンザレスの胸ぐらを掴んだ。表情から、はっきりと感情が読み取ることが出来る。

 相も変わらず、この光景の外は渦巻いている。なのに、この光景は鮮明で見てくれと言わんばかりに映し出されている。


『もう疲れたんだよ! 何を頑張っても、何かを達成しても父さん……お前は認めてくれる訳でもない。もう何をどうすればいいのか分かんねぇ。それに、俺はどんなに頑張ってもあいつを超えられなかった。積み重ねてきたことが全部無意味だった! お前にこの気持ちがわかるかよ……大した努力もせずに、色んなことを成し遂げるお前にっ!』


 ゴンザレスは、表情に沢山の憎しみを滲ませて叫んだ。


『それは、ち――』


 父上が何かを言い切る前に、ゴンザレスは自身の胸ぐらを掴む手を振り払った。それによって少し体勢を崩してしまった父上を、勢い良く突き飛ばした。


「あっ!」


 思わず、声が出てしまった。反応した所でどうにもなるはずでもないのに。声が出てしまったのには、理由がある。父上の突き飛ばされた先には、白い大理石のような物で出来た机があったのだ。

 そして、勢い良く突き飛ばされた父上は体勢を持ち直すことが出来ぬまま、フラフラと力なく背後に倒れていく。

 突然、時がゆっくりと進み始める。父上の頭は、その机の角に一直線に向かっていった。その瞬間を見るゴンザレスの表情には、徐々に焦りの色が浮かんでいく。


『うぐっ!』


 鈍い音と衝撃に反応する声が同時に聞こえた。ゆっくりと進んでいた時が、再びいつも通りに時を刻み始める。

 父上の体は、力なく床に倒れる。そして、その床には血だまりが広がっていく。父上は苦悶の表情を浮かべたまま、動かない。


『あ、あぁ……と、父さ……違っ、違う。俺は、ただ……』


 ゴンザレスは目を見開き、身を震わせながら動かなくなった父上にゆっくりと歩み寄る。血が靴下に滲んでいくのも気にせずに。


『死……ど、どう? 俺が? 警察、病院……俺捕まる? 殺人犯? 俺は……俺は? あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!』


 明らかに取り乱した様子で、ゴンザレスはそのままの格好で奇声を発しながら部屋から飛び出していった。

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