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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十一章 精神世界
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引き込まれる記憶

―精神世界 ?―

「うっ!」


 ゴンザレスが泣き始めて、少ししたくらいだった。突如、視界に渦巻き状の歪みが生じた。

 最初、それはとても小さかった。しかし、みるみる内に全体へと広がっていく。


「気持ち悪い」


 起き上がろうとしたのだが、手をつく場所がどこなのか分からない。全部が回っていて、当たり前の行動が難しいのだ。


「あぁ……」


 力の抜けた消えそうな声で、ゴンザレスは呟いた。


「ゴンザレス……?」


 その声は、はっきりと聞くことが出来た。おかしくなってしまったのは、視覚部分だけみたいだった。僕は、ゴンザレスがいるであろう位置に手を伸ばす。すると、少しざらついた布の感触があった。

 その瞬間――何かが僕の中に入り込んできた。それが何であるのか、はっきりとした言葉で表すのは難しく、かと言って比喩的に伝えるのも難しい。だが、簡単な言葉でなら伝えることは出来そうだ。


「変なの……がっ!」


 本来入れてはならぬもの、それが容赦なく張り込んでくる。異物が入ってくる感じ。それは、僕に明らかな違和感として伝わった。


「やめろ……っ!」


 出来る限りの拒絶をしたつもりだった。寝転がったままであった

が、身を必死に動かしたり、力を込めてその異物を跳ね返そうとした。だが、それを嘲笑うかの如く異物は侵入を続ける。

 そして、相変わらず視界は渦巻いている。淀んだ灰色が掻き回されていく様を見るのは、実に不快だった。目も回って、吐き気がするくらい気持ち悪い。肉体を持っていたら、間違いなく嘔吐していた。


「はっ!?」


 ぐちゃぐちゃになった僕の視界に、次第に何かが見えてきた。これが、長時間目を回され続けた結果見えた錯覚ならば、まだ良かったかもしれない。


『ウザい! ウザいんだよ!』


 渦巻きの中にあるその光景だけは、はっきりと見えた。視覚の異常が、嘘のように感じられる。


『それが父親に対する態度か! この馬鹿息子が!』


 徐々に目の前の出来事への認識が深まっていく。渦巻きの中の光景には、二人の男性がいた。そのどちらの人物も、見覚えがあった。見覚えがあった、という言い方は少しおかしいかもしれない。何故なら、片方は僕で、もう片方は父上なのだから。

 しかし、これに関しては僕は冷静だった。この二人が、僕と父上であるのは間違いない。ところが、そこには大きな一つの事実が存在する。それは、この二人はこの世界の人間ではないということだ。

 そう、この光景は僕じゃない僕、つまりゴンザレスの記憶。ゴンザレスが先ほど言っていたことから、そう推測した。音だけではなく、視覚的な情報もあるのは不思議だが……僕は自然とそれに引き込まれた。

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