後悔に後悔を
―精神世界 ?―
思ったこと全てが、勝手に口から零れだす。
「僕はあらゆる不幸の元凶だ……」
僕さえいなければ、こんなことにならなかった。本当の母上は、無理して僕を生んで亡くなった。そのことを、後悔したことはないと、ある時知った。
だが、それでも自責の念が消えたことはない。
「は~……」
それを聞いたゴンザレスは、わざとらしく大きくため息を吐いた。
「どんだけネガティブなんだよ」
「何を言っているのか分からないが……もういいだろう。さっさと出て行ってくれ」
「何をどう言われようと、断固拒否だ」
ゴンザレスは、頑なにここから出て行こうとはしてくれなかった。僕は、ゴンザレスの為を思って言っているのに。
「お前には、騒動を起こした責任を取る義務がある。それが公に出来なくても、お前はやらなきゃいけない。お前じゃなきゃ意味がない。ここに籠っても何も解決しない。ただお前が苦しくなるだけだ。ここでずっと……逃げ続けるつもりか?」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! お前に何が分かるんだよ……僕の何が――」
すると、ゴンザレスは僕の腕を引っ張って距離を詰め、顔を近付けた。
「分かるな、だって……そもそも、俺はお前なんだぜ? あんまり言いたくないことだけど。よく見てみろ、目の前にあるこの顔を」
そう、目の前にあるのは僕と全く同じ顔。何も違わない。目の前にいるのは、僕自身。
本来ならあり得ないことだ、この世界に全く同じ人物が二人いるのは。そして、ややこしい。そのややこしさを少しでもなくす為、もう一人の僕はゴンザレスという名を与えられたのだ。
「近い」
顔の距離があまりにも近くて不快だった為、顔を背けた。
「あ、ごめん」
そう言って、突然ゴンザレスは僕の腕を離す。力を入れていなかったせいか、糸が切れた人形のようにその場に倒れた。起き上がる気力すら湧いてこない。
「ともかく……お前の辛さと苦しさとか、俺には全部分かる。住んでいた世界は違えど……人生で起こることはそこまで変わらないみてぇだ。追いかけっこで姉ちゃん達に置いていかれたり? 新しい母親が少女を連れて現れたり? その世界の理に反さない程度に、な。ハハ」
ゴンザレスは笑いながら、その場にあぐらをかいて座った。
「なんで、今までの僕の人生で起こったことを知って――」
「ここで色々聞いた。その中に、お前の過去のこともあった。お前が辛かったこととか苦しかったことばっかりだったけどな。全部既知感があって……音だけで分かるとか、俺病気かな」
「はぁ……」
土足で踏み入られただけでなく、過去の恥ずかしい出来事まで知られてしまっていた。もう、ますますここから出て行く気分じゃなくなった。
「そんな日向ぼっこしてる野良猫みたいな体勢で、ダルそうな表情を浮かべてんじゃねぇよ。別に、恥ずかしいこともないだろう。だって、俺も経験してることなんだから。あとさ、俺にもあるんだ……生まれた時からやり直したいレベルの後悔が。もう、取り返しのつかないことだけどな」
ゴンザレスは、儚い笑みを浮かべて僕の目を強く見つめる。
「そして、その償いは残念ながら俺には出来ない。どう足掻いても。ずっと後悔することになるんだぞ。やり直したいって思っても、その機会を逃してしまったらマジで無理なんだぞ。後悔に後悔を重ねることになるんだぞ? なぁ……頼むよ」
「……お前の事情と僕のことは関係ない。ほっといてくれ。ゴンザレスは、何をしでか……っ!」
僕は咄嗟に口を塞いだ。思ったこと全て口に出てしまうのは、かなり厄介だ。それを見て、ゴンザレスはニヤリと笑った。