僕がいる世界なんて
―精神世界 ?―
「……きろ! 起きろって」
耳障りな声が、突然耳に入ってきた。
「ん……?」
ぼんやりとした視界に、顔が見える。
「やっと、起きたか。全然起きねぇから手遅れかと思ったぜ~」
ボーッとしていた頭が、次第にはっきりし始める。それと、同時に僕は一つ悟る。
「あぁ、全部夢か」
こんな状態になっても、僕は僕として生きなくてはならないのだ。とっくに、体は失ったのに。今こんな風に現実に打ちひしがれることが出来るのは、精神が失われなかったからだ。
「ガチ寝かよ」
「は? そんなことより、どうしてお前がここにいる」
そう言いながら、体を起こす。ここは、まるであの時僕が出した異空間のような場所だった。化け物に体を奪われた末に、行く着く所なのだろう。
「お前を連れ戻しに来た」
ゴンザレスは、ニヤリと笑う。
「何の為に」
「何の為? 決まってんだろ、俺の為だ」
そう言うと、ゴンザレスは僕の腕を掴んだ。
「嫌だ」
僕は、ゴンザレスの手を振り払う。
「はぁ? 俺がどれだけ苦労したか知ってんのか? まず、化け物になったお前を落ち着かせる。落ち着かせて、精神世界に入る。入っても、そこからお前を探し出して――」
「しなくてもいい苦労を、君がわざわざ背負ったんじゃないか。それに、勝手に入り込んでくるなんて……最低だね」
先ほどゴンザレスは、ここを精神世界と言った。僕の内面的な場所、すなわち心。そこに勝手に土足で入られて、喜ぶ人間などいない。屈辱的な気分だ。
「もう嫌なんだよ。僕は疲れた。犯した罪が、重ねた罪だけが僕を待ってる。そもそも、王がわざわざ僕である必要もない。それらに関しては、興津大臣に伝えたはずなんだけど……ちゃんと連携を取れていなかったのかな?」
「知ってる。それでも、俺達はお前を選ぶ」
「今までのことでよく分かっただろう? 僕は王として相応しくない。僕は何も出来なかった。それどころか……皆を騙していた。皆はどう思うだろうね? 王の正体が醜い化け物だったと知ったら、化け物の力でいいように思わされていたと知ったら……フフ、いや、もう知ることもないだろうけど」
僕はどこから間違えていたのだろう。父上に憧れた時からか、力を求めた時からか、姉上達に強い劣等感を抱いた時か、十六夜を庇った時からか、新しい家族を見て複雑な感情を抱いた時からだろうか。
「やり直せるなら……やり直したい。最初から……生まれてきたその瞬間から。でも、もうそれは無理なんだろう? 無理だから、こんな中途半端な所で足掻いてるんだろう?」
そう指摘すると、ゴンザレスは眉をひそめた。
「……一々ウザい奴だな。ごちゃごちゃ言ってねぇで、俺と一緒に来い!」
再び、ゴンザレスは僕の腕を掴む。
「嫌だと言っているんだ! どうして……どうして分かってくれない!? 僕には……もう何もないのに。僕がいる世界に幸せなんて……ないのに」