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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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嘘の羅列

―医務室 夜中―

 藤堂さんが、背中の治療をしてくれているこの間に嘘をつけるのは幸運だ。

 真正面にいたら、僕の表情から見抜かれる可能性が高い。僕は、必死に隠しているつもりなのだが。


(まずは、僕らが城外にいた訳から話した方がいいかな)


「僕は昼食を終えた後、退屈ですることもなかったから外を眺めてたんです。それからしばらくして、目の前を一瞬大きな影が通り過ぎました。一体何だったのか、その時は分かりませんでした。闇の中で、闇が動いたことだけは分かったのですが……でもすぐに、その正体を理解することが出来ました。もう一度、今度はしっかりと僕の部屋の前に姿を現したんです。そして、奴は僕に叫ぶ時間や、攻撃する時間など与えてくれませんでした。得体の知れぬ化け物の餌食になる……本能的にそれを察知するのは簡単でした。さらに、不幸なことに周辺には誰もいなかった、完全に終わりだと思いました。化け物は、そのまま僕を連れて建物伝いに外へと出ました。僕だって、必死に抵抗しました。でも、無意味で無駄な抗いでした。ははは……口に銜えられた状態は、本当に生きた心地がしませんでしたよ」


 自分でも、引いてしまうくらい次から次へと嘘を吐けた。


「ほう。だから、これほどまで傷が深いのでしょうか。全く元は同じ人間である筈なのに、本当に理性も何もないのですね」


 そんなに酷いとは、知らなかった。だから、穴を通る時、あんなに痛かったのだろうか。


(もしこの傷がなかったら、この嘘ちょっと危なかったな)


 少し、心臓の音が速くなるのを感じた。不安と緊張。もし失敗したら僕の手で……いや、今は、目の前のことに集中しなければ。


「どうしたら、彼らはその苦しみから解放されるのでしょうね。あ、話を戻します。そして、化け物は僕を地面へと落としました。終わりだと、もう僕はここで終わるんだと思ったその時でした、睦月と東が現れたのは。二人共かなり、息が乱れていました。これから話す事は僕の憶測だから、確かなことは分からないんですが、多分建物伝いに移動して、壁の向こうへ飛び越える時に窓から見えたのではないかと。だから、ずっと探してくれていたんだと思います。東は暗さには強い。だから、僕と化け物の姿を暗闇でも見つけられたのではないかと。でも、それが僕にとっての幸運で、二人にとっての不幸でした。二人は、僕を救う為、勇敢に化け物へと立ち向かいました。その隙を狙って、僕は逃げて魔法を使って二人と一緒に戦おうとした。でも、それは叶いませんでした。二人は、一瞬で捕まって口に運ばれていきました。その様子は、かなりゆっくり見えました。見せつけるように。その最期に、睦月は逃げてと叫んだんです。その声は、その声の主は、飲み込まれて跡形もなくなりました。僕は二人を助け出そうと、化け物に多くの魔法を使いました。効かないことくらい、情報で知っていたのに。僕に出来たのは、化け物を傷付けることだけでした。もう、魔力を使い果たした後は本気で逃げました。逃げろって生きろってことだと思ったんです。これが叶わなかったら、睦月が報われないでしょう? 無我夢中で逃げ続けて、やっと城に戻って来た。僕が知っているのはここまでです……」


 こんなにも綺麗に嘘を羅列したのは初めてかもしれない。根底から、ありもしないことを言い続けて、こんなにも達成感を得てしまうのはおかしいことなのだろうか?


「……巽様、傷はその人に起きた全てを物語ります。でも、その人以外に起こったことは、分からない。心を痛めているのに、わざわざ有難うございました」


 藤堂さんは、そう淡々と言った。

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