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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十一章 精神世界
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狂わされた歯車

―ゴンザレス 精神世界 ?―

 巽を見つけ出す為、さらに深い所へと潜っていった。それをとめようと、先ほどと同じような靄が何度も俺にまとわりついた。その度に、俺は靄を振り払い続けた。


「くっそ! 何度も何度も……ウゼぇんだよ」


 何かの手違いで、幸せな出来事を映してくれてもいいのに。丁寧に絶望と不幸に塗れた出来事ばかり、思い出させてくれる。そして、靄が現れるのは奥に行けば行くほど頻度が高くなった。


「それともあれか? 俺には、不幸な出来事しかねぇって言いてぇのか?」


 俺は誰に文句を言っているのか、虚しくなる。それもこれも、心の声が駄々洩れなせいだ。


「クソったれ……少しくらい幸せなこともあったわ。舐めやがって」


 その文句を言っている最中にも、容赦なく靄が顔にかかってくる。


「ウザい!」


 見せられる前に、何とかして振り払おうととした時だった。


『こんな世界……なくなってしまえばいいのに』


 その靄から声が聞こえた。今までのものとは少し違う、映像はない。その中性的な声には、聞き覚えがあった。それは、元々俺が持っている声だから。

 そして、もう一人――この声が持っている奴がいる。


『僕が弱いから、この病気が治らない』

『全部僕のせい』

『僕が不甲斐ないばかりに……』

『こんな僕なんて、いない方が皆幸せになれる』

『僕は独りだ……ずっと』


 それは、巽だ。こっちの世界の俺。その声を平気で使う。もし、この靄から聞こえるのが巽の心の声だとしたら――。

 

「可哀想な奴」


 そう言うしかなかった。そして、その靄は俺が払う間もなく消えた。


「独り? 笑わせんな。お前の周りにはいつだって人がいたじゃねぇか……上辺だけの奴なんて、ほとんどいなかったじゃねぇか。陸奥さんも小鳥も、お前の家族も使用人だって、それに国民だって……お前にそれぞれの想いを持ってたじゃねぇか。それが見えてなかったのか? 馬鹿か、お前は」


 羨ましいくらいに、妬ましいくらいに、巽は多くの人から愛されていた。それを自覚せず、少しずつ狂っていった歯車。


「お前は一体、どこから間違えたんだろうな」


 思いは交わらず、願いは伝わらなかった。その結果が今である。人が残酷なのか、運命が残酷なのか。もし、ここに心無い第三者がいたのなら、この様を見て嘲笑を浮かべていただろう。

 

「最初から間違えていたんだよ……この私によって、ね」


 俺がその存在に気付いた時には、既に背中を押されていた。


「あああああああ!?」


 浮力的なものなどなかったかのように、俺の体は落下していく。奈落の底に、真っ逆さまに落ちていくみたいな感じだった。


「誰が……ここに!?」


 その声はどこかで聞いたことがあった。だが、俺はどうしてもその声の正体を思い出せなかった。顔も見る前に、勢いよく落ちてしまったので分からなかった。

 俺に見えたのは、人のシルエットだけ。やがて、それは見えなくなって、再び灰色の淀んだ空間だけがそこにはあった。


「まさか……いや、そんなはずは。ん?」


 勢い良く落下し続けていた俺の体は、何かにぶつかってようやくとまった。

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