心を抉る
―ゴンザレス ? ?―
『死にたくない……死にたくない』
『僕は何も出来ない。役立たずだ』
『どうして僕ばっかりこんな目に?』
『独りは……嫌だ』
「――っ!?」
気が付けば、俺は灰色の淀んだ空間にいた。何もない、ただ灰色の世界が広がっている。
「まさか、ここが巽の精神世界って奴? マジか、趣味悪っ」
そんな空間で、俺は浮いていた。例えるのなら、海だろか。力を抜けば、上へ上へと引っ張られていく。多分、俺はこれに抵抗しなくてはならないのだろう。
「上が出口……って考えるのが妥当か」
少し耳を澄ますと、小鳥の歌声が微かに聞こえた。
「と、なれば下に巽がいる可能性があるな」
下を見てみるが、巽の姿は確認出来ない。もっと、深い所にいるのかもしれない。
「よし、行くぞ」
意を決して、下に体を向けた。そして、潜るように灰色の空間を掻き分けていく。しかし、それは楽なものではなかった。
灰色の靄のようなものが、しつこく俺にまとわりつくのだ。払っても払っても、ハエのように寄ってくる。
「何だ!? これ!」
俺の抵抗も虚しく、それは次第に大きく、さらにまとわりつく。それが顔を覆った時、俺はあるものを見た。
「これは、俺の子供の時の……」
靄の中に、まるで映像のように映し出される光景。そこには、家族がいた。それは、紛れもなく俺の世界の方の家族た。
『父さん、見て! 俺、こんなに頑張ったんだ!』
小学生くらいだっただろうか、俺は家族全員が集う食卓で学力テストの結果をを見せた。それは、普通の学校のテストより、少し難しいものだった。
しかし、俺は算数だけ満点を取った。算数は二つに分かれていたが、どちらとも満点だったのだ。きっと、褒めて貰える――そう思ったのだ。
『国語は満点じゃないのか』
『え?』
父さんは、褒めてはくれなかった。
『この程度で、お前は満足しているのか』
父さんは、俺に完璧であることを求めた。姉ちゃん達は、完璧だった。俺が、俺だけがその理想に沿うことが出来なかった。血を吐くような努力をした。だけど、父さんは認めてはくれなかった。
「消えろぉぉぉ!」
俺は、その靄を力強く振り払った。靄と同時に映像は消えた。あんなにしつこかったのに、俺に見せる物だけ見せて消えた。
「巽の精神世界……心の中なのに、俺の心を抉ってくるとは。どういう仕組みなってんだ? あ、飲み込まれるって……もしかして、こういうこと? なるほどね」
意外と、状況を冷静に判断出来た。
「あいつの心の中だし、マイナス的な感情が飲み込まれる原因なのかもなぁ。てか、なんでさっきから思ったこと全部言葉に……あぁ、これも心の中だからか。めんどくせ、さっさと巽探して外に出よ」
俺は、再び空間を掻き分けて奥へと進んだ。




