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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
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自分自身だからこそ

―ゴンザレス 中庭 夜―

「そう言って貰えるのは嬉しいけど……本当に難しいの」

「その難しさを説明して頂きたいですね。聞いてみないことには、何も始まりませんし」

「そうだなぁ、覚悟は出来てるから教えてくれ」

「分かった……」


 小鳥は覚悟を決めたように、俺達をジッと見つめた。


「巽様の精神を、表に連れ出して欲しいの」


 そう言って、横たわる化け物を寂しそうな目で見つめた。


「精神を? どうやって?」


 普通に考えて、それは容易なことではない。巽の体は完全に、化け物に乗っ取られている。寒いから布団から出たくないって言ってる奴を、無理矢理出すことが出来るかどうか問題に似ている。いや、少し違うかもしれない。

 しかし、分かりやすいよう噛み砕くとこれが一番合ってる気もする。


「彼の精神世界に入って……連れ出す」

「それだけですか」

「それだけですけど……その為に必要なことが色々ありまして」

「あーもう、まどろっこしいなぁ! もう全部まとめてさっさと言ってくれよ!」


 これからするのに必要なことを、中々言ってくれないことに俺は少しイラついていた。こっちはさっさとやって、さっさと終わらせたいのだ。

 ようやくそのチャンスが訪れたのに、目前に来て焦らされている気分だ。


「ごめんなさい、ついにこの時が来たんだって……言葉が上手くまとまらなくて……」

「気持ちは分かりますが、化け物がいつ目覚めるとも分かりません。次の手を打つのであれば、この穏やかな内にやる必要があるかと」


 興津さんは、淡々と言った。冷静に状況を分析している。確かにそうだ。化け物は疲れと、全ての魔力を消費したことによって倒れているだけだ。

 もし、何かしら回復すればすぐに攻撃してくるだろう。やるなら、確実に今しかない。


「分かりました……簡潔に説明します。まず、精神世界に入るにはある歌を歌わなくてはなりません。その歌は、鳥族に代々伝わる歌です。これは、私が歌わなくてはなりません。精神世界への扉を開いている間、その中に入る人が必要になります。ですから、どちかに――」

「俺がやる!」


 迷いなど一切なかった。


「大丈夫ですか? 単純に考えるに……精神世界に入るということは、入る者も精神状態になるということですよね?」

「はい、そうなりますね。祖母から何度も言われたことですが……危険は数多く伴います。その中で、最も恐れるべきこと。それは、入った者の精神が、その中に飲み込まれてしまうこと。ですから、決して自分を忘れないように、と」

「ミイラ取りがミイラになるな的な感じか……安心しろ。問題ない」


 今の俺なら、気分で優っている。俺に不可能はない。決して、自分を見失わない。


「……一番巽様と近い、いえそのものである貴方が行くのはかなり危険な気もしますが……意思は固いようですね。まぁ、私が行っても巽様を連れ戻せる自信はありませんから、貴方にお任せしましょう」

「あざっす! てか、自信がない……? 何でですか?」

「私は、人の気持ちが分からないので。それに、伴う危険は裏を返せば有利なことに繋がるかもしれません」


 興津さんは、遠くを見つめた。人の気持ちが分からない、それは俺の意思を優先させる為の嘘か、それとも本当のことなのか。


「例えば、自分の気持ちは自分が一番理解出来る……とか。フフ、さて、もう決まりましたね。巽様を取り戻すのは、貴方です。私は、皆様の肉体が無事であるように守ります。彼が暴れださないように……」





 そして、ついに始まる。役目を得た俺は化け物の隣に立って、奴に触れる。小鳥は五色絢爛の翼を輝かせながら、祈りを捧げるように手を組んで宙に浮いている。興津さんは、遠くからそれを見つめている。


「えくむつ……とへどそ♪」


 歌が始まった。


「うぐぅぅ……」


 その瞬間、化け物は苦しそうに呻いた。


「あぁ……」


 体が軽く、小鳥の歌声が遠くなっていく。意識が、化け物に向かって強く引っ張られていくような感覚。


「ねむとつとへどか――」


(待ってろ、俺が必ず……)

 

 刹那、体が宙に浮くような感覚を得た。そして、次に目の前で巨大なビックバンが起こったかのような錯覚が俺を襲った。

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