毒牙に蝕まれようとも
―ゴンザレス 中庭 夜―
俺は太い木の幹に背中を任せ、安定感のある太い枝にまたがって、化け物の攻撃をかわし続ける二人を見つめていた。
このままではいけないのに、一度休憩モードに入った体は動いてはくれない。遠目から見ていても、翻弄するような二人の動きは完璧だ。それを必死に化け物は、顔を動かして追っている。
(……身軽だなぁ)
化け物は、一人を追うのに精一杯になっているようだ。それに気付いたのか、二人はさらに周囲を掻き回す速度を上げる。
化け物が彼女らに向かって手を振り下ろす時には、誰もいない。殺気立っているのが、ここからでもよく分かる。
(怒りって感情は確かにあるようだな……そこら辺は生物的なあれやこれやと同じなのか)
その時だった。唐突に、化け物は天を仰いだのだ。
「ん?」
その行動の真意は、理解出来なかった。それは二人も同じようで、飛び回るのをやめ、化け物の正面で立ち止まって警戒している。
(何が……っ!?)
次の瞬間、化け物が何かを吹きだした後、力強く地面を蹴って正面の二人に向かって駆け出した。俺らにはそう見えていた。だから、二人は今までと同じように平然と避けてみせた。
しかし、その見え方は誤りであったようだった。化け物は駆けるのをやめなかった。それどころか、勢いをどんどん加速させていく。そして、気付いた。
(まさか!)
化け物が狙いを定めているのは、木で呑気にも休んでいるこの俺だと。それなりの距離があったはずなのに、いつの間にか化け物は俺の目の前へと迫っていた。
木にいる俺と大きくなった化け物の目線の高さが等しくなって、目と目が合う。突然のことで、俺は反応出来なかった。体が動かなかったのだ。
「グルルル……」
よだれを垂れ流しながら、俺を見つめる。そのよだれは、毒でも含まれていそうな禍々しい色をしていた。まさか、先ほど吹き出したのがこれだったとしたら――。
「ハハ……」
魔法も使えない。瞬間移動も難しい。
「逃げて!」
小鳥の必死の叫びが聞こえた。やはり、この一瞬で何らかのダメージを負わされてしまったようだ。でなければ、小鳥がこんな絶体絶命の俺を救いに来ないはずがない。興津さんも然りだ。
「逃げろっつたって……無理だ。体がマジで動かねぇ……」
化け物の息が俺に当たる。勝手に体が震えだす。
「ちょっとカオスなことになりかねんぞ……」
このままいけば、奴は俺を喰らおうとする。しかし、俺は他者から与えられたダメージは一切受けない。つまり、いくら噛み砕こうとしても、俺はその姿形を保ったままでそれ相応の痛みを受け続けなくてはならないということ。人間版硬すぎる食べ物になってしまうのだ。
いくら死なないからという理由でも、よしじゃあ喰え! なんて腹をくくれるはずもない。痛いのはもう沢山だ。
「グルガガガガガガ!」
化け物が大きく口を開いた。鋭い牙とよだれでグチャグチャになった口が俺に向かって――。
「駄目えぇぇぇ!」
刹那、世界が真っ白な光に包まれた。