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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
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かつての教え

―ゴンザレス 中庭 夜―

 近付いた俺達に、化け物が視線を向けた。


「あ、お疲れ様です」


 興津さんは、俺達の前に着地してそう言った。額からは汗が伝っているが、疲れは感じさせない。


(バイトで、先あがる時のトーンだな……)


「凄いっすね……」


 思わず感心してしまった。一人で異常に動き回っていたのにも関わらず、息を切らしてすらいない。

 彼女の体力がおかしいのか、そう見えないように振る舞っているだけなのか、どっちにしても彼女が凄いと言う事実は変わらない。


「果たすべきことを果たしたまで……ちょっとは弱ってくれましたよ」


 彼女は微笑み、化け物を指差す。確かに、化け物は息を切らしていた。それに、傷だらけだった。俺らが、散々攻撃しまくったから当然だ。体のあちこちに、興津さんが前放ったナイフが突き刺さっている。動けば、そこらが痛むのだろう。

 しかも、よく見れば地面には血だまりが至る所にある。そして、今も化け物の下には血だまりが出来ようとしていた。


「ちょっと所じゃないようにも見えますけど……」

「眼球を抉り出したり、腸摘まみだしたりしてもいいんですか?」

「そ、それは駄目です! 巽様にまで――」

「知ってますよ、それくらい。ですから、最小限の攻撃で動きを弱めようと思いまして。ですが、中々しぶといですね。本能に飲み込まれても、気力だけでこうやって私に歯向かうんです。流石は特殊な個体……さて、どうします?」


(どうします? って言われてもなぁ……どうすればいいんだよ)


 化け物は、人が増えたことで警戒しているようだ。遠くから毛を逆立てているだけで、攻撃はしてこない。少しは話す余裕がありそうだ。


「これ以上の攻撃は、さらに巽様の体と心に負担を与えてしまうでしょう。難しいですねぇ」

「巽様が……かつて仰っていました。防御こそが最大の攻撃であると」

「あ、俺もそれ聞いたことあるな。めっちゃウザかったけど……で、それが何?」


 あいつは俺の攻撃を全てかわし、最終的に俺をぶっ飛ばした。相手を疲れさせた上で、軽い攻撃でとどめを刺す的な感じだったはず。


「ゴンザレスも覚えてるでしょ? 攻撃を全てかわされたりしたら、気分も落ち込むし腹が立つ。攻撃することだけしか考えていない相手なら、それがますます有効に使えると思わない?」


 小鳥は俺を見て、目を輝かせる。


「なるほど……でも、こいつにそこまでの感情あるのか?」

「怒りくらいは感じているようですよ。それに、疲れも。私がかわしまくっていた分、少しで済むかもしれません! それにしても、いい案ですね。それでいて賢いです。流石は、神童と謳われた方です。きっと、こちらの世界の貴方もこのように活躍されるのでしょうね」

「あ、ありがとうございます」

「よ~し、じゃあ全力でかわすぞ! まずは挑発してやるか!」


 俺は笑みを作って、化け物に向かって真っ直ぐ歩いていく。化け物は目だけを動かして、近寄る俺を追う。


「気を付けて……ゴンザレス」

「分かってるって」


 俺は化け物の前で、堂々と腕を組んで仁王立ちしてやった。


(さぁ、いつでも来やがれ! この野郎!)

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