何度時を重ねたか
―ゴンザレス 中庭 夜―
化け物をついに目の前にした小鳥は、悔しそうに唇を噛み締めた。目には、今にも零れ落ちようとせんばかりの涙が浮かんでいる。
俺から手を離すと、その手を胸に当てて大きく息を吐いた。そして、口を開く。
「この姿を見たのは……何度目かな」
「小鳥……」
「もう数えきれない、数えきれないよ」
小鳥は、胸に当てていない片方の手を見つめた。
「あんなに小さかったのに。いつの間にか、巽様とそう変わらない年齢になってしまった……あんなに年上だったのになぁ」
「安心しろ、もう繰り返さなくて済む。今回で絶対に終わらせよう。俺みたいな奴じゃないと、すぐ自分で命を絶っちまうぜ。あいつを取り戻せたら、一緒に遊びに行こうぜ」
「……そう、ね」
小鳥は、俺に優しく微笑んだ。ただのその笑顔は、どこか悲しく寂しそうだった。
「ま、終わったらって話は、全部終わったらにしようぜ。興津さんがめっちゃ頑張っているし。戦えるか?」
化け物を翻弄するような動きで、興津さんは疲れを感じさせない。だからと言って、彼女の負担を増やす訳にもいかない。俺も小鳥も疲れているが、やらない訳にもいかないのだ。
「戦える、絶対に戦う。長い長い時の中で、私は大切なことを忘れてしまっていたんだね。救いたい人をちゃんと見てなかった。だから、こんなにも何度も巽様を苦しめてしまった……専属使用人だったのに、一番大切なことを忘れてしまうなんて。職を解かれて当然だわ」
「え?」
「……一番最初の世界での話だよ」
「いや、その時も今回みたいな性格になってんだったら、それあんま関係ない説……」
「いいえ、傍に置いておきたくないってことは信用していないってこと……致命的だよ。今思えば、主人のことをちゃんと見てないんだから、それくらい当たり前ね」
最初の世界、この使命を知る前の小鳥は当然子供だ。受けたショックも相当大きかっただろう。巽を嫌いになってもおかしくない。
しかし、それでもなお小鳥が巽を慕って、想いを抱き続けているのは本当の巽を知っているからかもしれない。
いや、もしかしたらその時は嫌いになったかもしれない。何度も繰り返す中で真実を知って、また巽を好きになってしまったのだとしたら……最初の頃よりも想いが深くなっていると考えてもいいかもしれない。全部、勝手な俺の推測に過ぎないが。
「……ったく、どこまでいい奴なんだよ」
「いい奴じゃないよ。いっぱい犠牲にしたんだもの……どんな悪よりも罪深いと思うわ。自分のこと」
「そんなこと言ったら、俺の方が……いや、今はこんなこと話してる場合じゃねぇぞ」
話し出すと、とまらなくなってしまう。
「そうだね。行こうか、三人ならきっと勝てる」
「きっと? 違うぜ、絶対だ!」
俺は、小鳥が目の前に出していた手を掴んで化け物の所へと走った。