俺の声は届かない
―ゴンザレス 中庭 夜―
吸った息を吐き出しながら、声を発する。
「小鳥ぃぃぃ!」
つまり、叫んだ。ついでに、申し訳程度に跳んだ。覚醒的に飛べないかなと思ったが、それは無理だった。覚醒するほどじゃないよっていうお告げだろうか。なので、溜め込んでいた空気が肺から消えるまで叫んだ。
俺の全身全霊の叫び、いや絶叫は響き渡る。下でこれほど大騒ぎしているのに、集中状態を維持している小鳥の意識をこちらに向ける為だから仕方がない。うるさいとかいう苦情は受けつけない。夢の中までうるさいとか言われても知ったこっちゃない。こっちは必死なのだ。
だが、しかし――現実はあまりにも無情だった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
生命活動が維持出来るか出来ないかというギリギリのレベルまで、俺が叫んだにも関わらず小鳥には届かなかった。
マラソン大会で、一位争いをした時と同じくらい疲れた。こんなにも頑張ったのに、報われなかった。
「こ、と……り……」
肺か心臓かは分からないが、マジで痛い。どっちかの臓器が筋肉痛になったら、多分こんな痛みがするのだろう。握りつぶされているような、針で突き刺されているような鈍くて鋭い痛み。ここに俺らいます、働いたよと言わんばかりの存在感を放ち俺に不快感を与えてくれる。
一方、背後では興津さんが化け物と戦っている。これ以上、彼女に手数をかけさせる訳にはいかない。いくら彼女が化け物を知っていたとしても、一人で相手をするのは苦しくなるだろう。少しでも早く手助けをしたい。
(でも……声が届かないんなら)
小鳥は五色絢爛のオーラを漂わせ、目を瞑ったままだ。このうるさいで御馴染みの声が、その集中を途切れさせることが出来なかったとなるともう希望がない。もう選択肢など、一つも――。
(いや、ある……!)
たった一つだけ、今出来る可能性を見つけた。それは俺にとって、かなり屈辱的だ。
でも、それがこの世界を救う為に必要な鍵になるのなら。バクバクと大きな音を立てる心臓の音を聞きながら、俺は息を吸った。鈍い痛みに耐えながら、再び叫ぶ。
「小鳥ぃぃぃ!」
叫んだ言葉は変わらない。一番の大きな違いは、俺の嫌いな地声で叫んだだけだということ。俺が地声で叫ぶということは、巽と同じ声で叫ぶということだ。
しかし、叫びという領域には達していたというものの、その声は先ほどよりもずっと小さかった。だから、届かないと思った。届かなくても仕方がない、と。
「小鳥……」
小鳥から出ていた五色絢爛のオーラは消えた。そして、声のした方向を確認するようにこちらを見下げた。
それは、俺にとって心が引き裂かれそうなほどの悔しさと、報われたという嬉しさと達成感を感じさせた。そして、小鳥は憔悴しきった表情で口を開く。
「何、があった……の。ゴンザレス」
その問いに答えるより前に、俺の目からは何かが伝った。




