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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
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目の前にいるのは

―ゴンザレス 中庭 夜―

 化け物が、俺らに向かって突進する。俺には、魔力を使って飛ぶ力なんぞ残ってはいない。身体能力を使って、全力で避けることしか出来ない。一方、興津さんはひらりふわりと蝶のように優雅に避ける。


(俺は必死でこんなに避けてるのに……あぁ、悲しい)


 咄嗟に結界なんて使うから、こんな目に合っている。全部俺の責任。体を動かすだけでバラバラになってしまいそうなくらいダメージを負っているのも、俺の責任。気力だけでやっている。


「はぁぁぁ……」


 大きく息を吐き出す。


「お疲れですか?」


 俺の前に、興津さんが立つ。


「お疲れですね」


 本音を隠すつもりもない。余裕もない。


「では、休まれますか?」

「え?」

「自慢ではありませんが、化け物のことは、ここにいる誰よりも理解している自信があります。貴方は、かなり疲れていらっしゃるようですしね。休みついでに、上空の彼女の所に行って頂きたいのです!」


 化け物が吐き出してくる火の粉を、彼女は真顔でかわしながら言う。彼女はあえて、攻撃が自分に向くように俺より前に出たことに気付いた。俺の動きを最低限にするために。


「小鳥のとこにっすか?」

「伝えて欲しいことがあります」


 そう言いながら、彼女は大量のナイフを魔法で出す。


「伝えて欲しいこと?」

「力を目覚めさせる方法についてです」


 彼女は、その無数のナイフの先を化け物に向けた。


「力を……今、それを小鳥がやってます。時間がなくて力を完全に溜め込むことは出来なかったけど……無理矢理でも――」

「無理矢理? その考えが間違っています」


 ナイフは、一斉に化け物へと向かう。攻撃することだけを考えているであろう化け物は、そのナイフを避けなかった。鋭い刃が、全て化け物の体に突き刺さる。


「グアガガガ!」


 地響きに近い叫び声を上げ、化け物はその場で立ち止まり苦しみ始める。これで、少しは落ち着いて話が出来そうだ。


「力が唐突に目覚める時、それはきっかけがあります。誰かを助けたいだとか、何かに勝ちたいだとか。その者の内部にある力は……その時を待っているのです。しかし、彼女はそうではないようです。守りたいとか救いたいとか、そんな思いがあるのは理解出来ます。ですが、この力を目覚めさせたいという思いだけが先行してしまっているから、いつまで経っても目覚めないのだと思います」

「何を根拠に……」


 少し、いやかなりムカついた。今までの小鳥の苦労も知らずに、一方的に非難されたから。俺がそう思っても仕方がないのだが、不快感を確かに感じた。


「根拠? 根拠は現状が示しています。力の温存? そんなことで目覚めるはずもないでしょう。巽様は、目の前にいるのです。目の前を見なくてどうするのですか。その気持ちをぶつけるべきでしょう! 今、ここで!」


 興津さんの声は力強かった。その言葉に、俺はハッとさせられた。


「そうか……そうか、やっと分かりました。どうしてそのことに気付けなかったのか……それを伝えて来ます」


 自分が恥ずかしくなった。大切なことに気付けていなかった。本当に救いたい人は、どこにいるのかということを忘れてしまっていた。誰の為にその力を目覚めさせたいのか、本質的な部分をすっかり忘れてしまっていた。


「お願いします。時間稼ぎはお任せ下さい。得意なんですよ。イライラさせるの」


 彼女は、小さく笑みを浮かべると化け物に向かって行った。正直、彼女の最初の印象からは想像出来ない。


(人間って怖いな……俺も行くか)


 俺は空を見上げる。そこには変わらず、眩しい光を放つ小鳥がいた。目覚めさせようと必死に足掻いている小鳥が。


「すぅぅ……」


 俺は大きく息を吸った。

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