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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
357/403

思考が人間の偉大さをなす

―? ?―

 あまりにも勢いが良かったので、体勢を崩してしまいそうだったが何とか持ち直した。しかしまぁ、水の中は思うように動けない。


「やっと会えた……ずっと会いたかったの。寂しかったの」


 琉歌の黒髪が、僕に絡まる。


「僕も会いたかった。ずっとずっと……離れ離れだったような気がするんだ」


 確かな物は、琉歌がくれた思い出だけ。それ以外は疑問ばかり。考えてはいけないとは分かっている。

 それは、さらに自身のあやふやさを強くしていくだけなのに。考えることを人はやめられない。僕は、やめられない。


「たまにしか会えないからだよ。ねぇ、一緒に海を泳ぎましょう」


 琉歌は、水平線の彼方を指差す。


「え、でも僕は……」


 僕は泳げない。溺れたことが、記憶に深く刻み込まれているから。でも、琉歌に会いたい一心でここまで来た。

 しかし、これより先に行くということは足がつかない場所に行くということだ。


「私が連れて行ってあげる、だからほら!」


 笑顔で琉歌は手を差し出す。彼女の笑顔は、月に照らされて妖艶さを増していた。幼さはもうない。大人としての魅力だけがあった。

 周囲のあらゆる環境が、彼女を引き立たせるための装飾品のようだ。それは、人魚である彼女が元々美しいからかもしれない。


「分かった、琉歌がいるなら……」


 僕は、差し出された手を掴んだ。琉歌は微笑み、そのままゆっくり僕を連れて海を進んでいく。自然と恐怖はなく、ただ彼女の導きのままに体を任せた。海を泳ぐ最中、彼女は歌を歌った。それは過去に一度、歌ったものだ。


「散りばめられた思い出達と悲しい世界に身を捧げて生きる♪ どこまで向かえばどこに辿り着くの? 答えなどない、未来に……♪」


 彼女の優しい歌は、僕に安らぎと幸福を与えてくれた。

***

―ゴンザレス 中庭 夜―

「グララァアガガガ!」


 化け物から繰り出される考えもない攻撃を、俺はすんでの所でかわす。少し前まで、人の言葉を喋っていた奴とは思えない。ライオンのような姿だが、少し違う。ライオンにしては、あまりに大き過ぎる。城の二階くらいまではあるだろう。


「どうしたって言うんだ、急に!」


 魔剣を構えて、次なる攻撃に備える。化け物は俺を喰らおうとするように大きな口を開いたまま、こちらへと突進してくる。


「落ち着けクソォ!」


 俺は何かしなくては、と逃げることはやめて口より先に来た右の前足を深く斬りつけた。


「ガウガ!」


 化け物は、ようやく怯んでくれた。斬りつけた足からは血が溢れている。その隙を狙って俺は、さらに攻撃を与える。奥義を無駄に使ったことを後悔した。また力を溜めなくてはならないのだから。力を溜めるには、攻撃をするしかない。


(もう一つを使ってもいいが……しかし、ここで使ったらいけない気もする。もう少し弱らせてからではないと……気絶させたいしな)


 化け物は俺を蹴飛ばす。それをかわすことは出来ず、そのまま後ろへと転がる羽目になった。立ち上がるより前に、化け物が俺に向かって勢い良く走ってくる地響きのような音が聞こえる。


「ヤバ!」


 踏みつけられる、そう思って覚悟を決めた時だった。


「ついに……ここまで来てしまったのですね」


 冷静で、落ち着いた声が聞こえた。


(ん?)


 踏みつけられた痛みなどは一切ない。急いで立ち上がると、何故か倒れた化け物の前には興津さんが立っていた。

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