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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
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方法は違えど

―ゴンザレス 中庭 夜―

 俺の倒れていた場所には、魔剣が突き刺さったままだった。それを抜き取る。剣には血痕一つついていない。


「それで僕を刻む? 酷いなぁ、僕は君の背中に刺しただけだけど」

「まだ何も言ってねぇ……」


 こいつを切り刻めば、巽までも切り刻むことになる。切り刻むことが出来れば楽だが、それでは小鳥はこの呪いから解放されない。それに、巽は王である限り逝くことはない。どんな体になったとしても、きっと何らかの形で復活するだろう。


「へぇ、じゃあその剣は何の為にあるの?」

「これは……お前をとめるための剣だ。お前を傷付ける剣じゃない」

「ぐぐ……意味が分からない。巽は、それで沢山痛い思いをしてた。君が傷付けるつもりじゃなかったとしても。綺麗事、自分の行動を正当化してる。巽は傷だらけだ……傷だらけなんだよぉぉおお!」


 化け物から、逃げる余裕もない速さの波動が発生する。足が攫われてしまいそうだった。俺は剣を地面に突き刺して、そこに必死に留まる。


「グアガグアガガガガアガガガガガガアアアアアア!」


 何かを伝えたいのか、それともただ怒りを込めて叫んでいるだけなのか。その声は苦しそうだった。


(正当化……か。そう言われると、否定は出来ねぇな。傷付けることが目的だった訳じゃねぇけど……でも!)


「お前をとめなきゃいけねぇ理由があんだよ!」


 俺は叫んで、剣を抜き取る。足を攫われる前に、高く跳び上がり化け物へと斬りかかる。しかし、俺の動きを読んでいたかの如く、化け物はその攻撃をかわした。


「がうが……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……痛いのは嫌だ。でも、痛くしないと僕は消えちゃう。消えたら……巽も……嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだイヤダイヤダ!」


 俺の攻撃は当たっていないのに、化け物は痛みを訴えている。


「嫌だ! 嫌……遊びたい遊びタイ……壊して遊ぶ……ねぇ、いいよね」


 その目は狂っていた。涙を流しながら笑い、楽しそうに苦しんでいる。


「お前は餓鬼か?」

「クククク……僕はぁ! 巽の幼い頃に住み着いたからぁ、フフフ」

「あ? 説明が足りねぇなぁ!」


 俺は、化け物に殴りかかる。しかし、今度はそれを受けとめられてしまった。俺の拳を力強く掴み、爪を立てる。鋭い爪が手を突き破っていく。


「くっ!」


 俺が離れようと暴れても、食い込んだ爪がそれを許さない。


「痛いよねぇ、怖いよねぇ。でも、僕は君と遊びたいだけなんだ。君を傷付けたい訳じゃない」

「皮肉のつもりか……糞っ!」


 化け物の腹を蹴って、俺は何とか距離を取ることが出来た。


「遊ぼう……壊れるまで。巽のお陰で君の動きが読めるし、見える。いっぱい遊べる……ううぅっぅ!」


 突然、片目を押さえながら化け物は苦しみ始める。


「お、おい」

「どうして巽……君はこっちじゃ幸せになれない。駄目だ。お願い……眠っててよ。苦しみは僕が全部……」


 俺は分からなくなった。化け物は本当に悪なのかが。敵であるのか。


(俺が本当に救うべきは……まずはこいつなんじゃ……)


 俺は先入観から間違っていたのかもしれない。こいつは、方法は違えど俺と同じように救おうと――。


「グアグアアウゥゥゥゥウ!」


 巽の姿が変わり始める。体の一部までで留まっていた毛が、顔まで覆い始める。巽であると認識出来なくなっていく。体は異様なまでに大きくなっていく。その重みに、耐えきれなくなったみたいに両手を地面に着いた。もう、そこにいるのは正真正銘の化け物だった。

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