方法は違えど
―ゴンザレス 中庭 夜―
俺の倒れていた場所には、魔剣が突き刺さったままだった。それを抜き取る。剣には血痕一つついていない。
「それで僕を刻む? 酷いなぁ、僕は君の背中に刺しただけだけど」
「まだ何も言ってねぇ……」
こいつを切り刻めば、巽までも切り刻むことになる。切り刻むことが出来れば楽だが、それでは小鳥はこの呪いから解放されない。それに、巽は王である限り逝くことはない。どんな体になったとしても、きっと何らかの形で復活するだろう。
「へぇ、じゃあその剣は何の為にあるの?」
「これは……お前をとめるための剣だ。お前を傷付ける剣じゃない」
「ぐぐ……意味が分からない。巽は、それで沢山痛い思いをしてた。君が傷付けるつもりじゃなかったとしても。綺麗事、自分の行動を正当化してる。巽は傷だらけだ……傷だらけなんだよぉぉおお!」
化け物から、逃げる余裕もない速さの波動が発生する。足が攫われてしまいそうだった。俺は剣を地面に突き刺して、そこに必死に留まる。
「グアガグアガガガガアガガガガガガアアアアアア!」
何かを伝えたいのか、それともただ怒りを込めて叫んでいるだけなのか。その声は苦しそうだった。
(正当化……か。そう言われると、否定は出来ねぇな。傷付けることが目的だった訳じゃねぇけど……でも!)
「お前をとめなきゃいけねぇ理由があんだよ!」
俺は叫んで、剣を抜き取る。足を攫われる前に、高く跳び上がり化け物へと斬りかかる。しかし、俺の動きを読んでいたかの如く、化け物はその攻撃をかわした。
「がうが……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……痛いのは嫌だ。でも、痛くしないと僕は消えちゃう。消えたら……巽も……嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだイヤダイヤダ!」
俺の攻撃は当たっていないのに、化け物は痛みを訴えている。
「嫌だ! 嫌……遊びたい遊びタイ……壊して遊ぶ……ねぇ、いいよね」
その目は狂っていた。涙を流しながら笑い、楽しそうに苦しんでいる。
「お前は餓鬼か?」
「クククク……僕はぁ! 巽の幼い頃に住み着いたからぁ、フフフ」
「あ? 説明が足りねぇなぁ!」
俺は、化け物に殴りかかる。しかし、今度はそれを受けとめられてしまった。俺の拳を力強く掴み、爪を立てる。鋭い爪が手を突き破っていく。
「くっ!」
俺が離れようと暴れても、食い込んだ爪がそれを許さない。
「痛いよねぇ、怖いよねぇ。でも、僕は君と遊びたいだけなんだ。君を傷付けたい訳じゃない」
「皮肉のつもりか……糞っ!」
化け物の腹を蹴って、俺は何とか距離を取ることが出来た。
「遊ぼう……壊れるまで。巽のお陰で君の動きが読めるし、見える。いっぱい遊べる……ううぅっぅ!」
突然、片目を押さえながら化け物は苦しみ始める。
「お、おい」
「どうして巽……君はこっちじゃ幸せになれない。駄目だ。お願い……眠っててよ。苦しみは僕が全部……」
俺は分からなくなった。化け物は本当に悪なのかが。敵であるのか。
(俺が本当に救うべきは……まずはこいつなんじゃ……)
俺は先入観から間違っていたのかもしれない。こいつは、方法は違えど俺と同じように救おうと――。
「グアグアアウゥゥゥゥウ!」
巽の姿が変わり始める。体の一部までで留まっていた毛が、顔まで覆い始める。巽であると認識出来なくなっていく。体は異様なまでに大きくなっていく。その重みに、耐えきれなくなったみたいに両手を地面に着いた。もう、そこにいるのは正真正銘の化け物だった。