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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三十章 夢の世界
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支配された体

―ゴンザレス 中庭 夜―

「こ……と、り……」


 小鳥は無事そうだ。変わらず、上空で五色絢爛な翼を美しく輝かせている。


(俺だけにやったのか……うぅ)


 稲妻に射抜かれ、目も開けられないほどの強風に抗う術もなく何度も地面に叩きつけられ続けた。ようやく、その風が収まって冷静に何があってどうなったかを考えることが出来るようになった次第だ。

 体に傷はない。だが、今まで負ったダメージ分の痛みがある。灼熱の炎だけでも痛みでおかしくなりそうだったのに、稲妻に射抜かれた挙句、その体を何度も地面に叩きつけられたのだからたまらない。頼みの綱も、それによって手元からなくなっていた。


(時間稼ぎが……てか、巽は?)


 地面に伏せたまま、周囲を見渡す。しかし、そこに巽の姿はない。そんなはずはない、俺を潰す気満々だったのに。トドメを刺す絶好の機会に消えることなどあり得るだろうか。

 それに、巽はここから出ることは出来ない。それは、小鳥が事前に張った結界があるからだ。だから、この場にいるのは間違いない。なのに、あまりにも静か過ぎる。不気味なくらいに。


「どこっ……だ?」


 その瞬間、生温い風が頬を撫でた。冬であるはずなのに。背後から、突然気配を感じた。しかし、俺が振り返るより前に事は起こる。


「ぐはっ!」


 冷たくて熱くて痛い。もし、俺の体が普通だったら血を吐いていただろう。しかし、普通でない俺の体は、当たり前のように正常に動き続けていた。


「ぐぐぁ……痛かったかなぁ? でもさぁ、楽しいんだよ。人をこんな風に出来るのって! もっともっと楽しませてよ……壊してもいい? よねぇ」

「たつ……ぐぇ! や、なん……! 痛い!」


 熱さと冷たさを伴った鋭い痛みが、背中から体全体に広がっていく。


「どれくらい痛い?」


 巽が俺の顔を覗き込んだ。その顔を見て、俺は驚愕した。巽の原型はある。しかし、口からは鋭い牙が覗いていた。


「お前……まさか!」

「ぐうがっ……難しいなぁ、がるがっ、そうその通りだよ。この体は完全に僕に手に堕ちた。がぁぁ……体を使って話すのは初めてなんだ。でも、上手な方だろ? そーれっ!」


 グチャリ、ボキボキと背中にあった物がめり込んでいく音がした。声が出なくなるくらい痛くて、それでも俺には血すら出なくて。


「いいねぇ、この魔剣? だっけ、好きだよ。さあぁ……僕と一緒に遊ぼうよ。ぐ……世界を賭けた遊びをしよう、僕が勝ったら全部終わり! がう、君が勝ったら……僕もう何もしない」


 巽、いや巽の形を催した化け物は伏せる俺の前に全容を晒す。手の爪は鋭く伸びて、手は毛で覆われている。僅かに見える首元も足首も同様だった。


「ククク……その表情は傑作だね。凄いでしょ? 僕頑張ったんだ……どうせ僕が支配するなら、巽みたいに二本足で歩いて会話をしてみたかった。その為にいっぱいいっぱい巽を不幸にしてあげたんだ。ググググググググアアアッハハッハハハッハハハ! それは巽にとっても、結果として悪いことじゃないしね……」


 化け物は大きく口を開いて、腹を抱えて笑った。


「そんなことより、遊ぼう遊ぼう! 遊んでくれなかったら……あの子どうしようかな」


 顔が壊れるんじゃないかと思うほどの笑みを浮かべて、化け物は上空にいる小鳥を指差す。


(こいつ……!)


「ぐぐ……壊れるくらいに遊ぼうよ! 壊れるってとても綺麗なんだよ……君は、何も出来なかった巽とは違うって信じてるよ」


 化け物は、俺の頭を鷲掴みにした。鋭い爪が俺の頭に突き刺さる。


「いいねぇ……壊れない人間でずっと遊ぶのって。壊れる日が来るまで遊びたかった……でも、そんな時間はないね。フフ」


 目を見開き、長い舌でなめずりをする。そして、その舌で俺の頬を舐めた。舌は紙やすりのようにザラザラとしていて、肌がそぎ落とされてしまうのではないかと思った。


「きたねぇ……」

「あ、やっと喋ってくれた。会話が続かなくて少し怖かったんだ。でも、通じてた良かった!」


 化け物は嬉しそうに立ち上がると、俺の視界の外に足を持って行く。次の瞬間、鈍い音がすると同時に痛みが襲った。

 推測だが、俺の背中に刺さったままの魔剣を力強く踏みつけたのだろう。いっそ、死ねたらこんな痛みを知らずにいられたのかもしれない。


(駄目だ……俺は生きて……俺の為に……)


 遊びという名の一方的な暴力。俺はそれに抗わなくてはいけない。結界で消費した魔力が大き過ぎて、魔法を使うことは難しい。だからといって、弱気になってはいけない。俺は戦わなくてはならないのだ。


「糞が……糞がぁぁぁぁ!」


 俺は手を立てて、痛みを堪えながら必死に体を起き上がらせる。しかし、踏まれているようなのですぐに押し戻される。


「もっともっと!」


 愉快な声がする。苛立ちは倍増だ。


「気安く俺を踏みつけんじゃねぇぇぇ!」


 体を物体が通り抜けていく音、激痛の連鎖。その場に俺は立ち上がっていた、気力と根性だけで。


「凄い! これでも君は壊れないんだ……あぁ……とてもいいね」


 踏むことが出来なくなった化け物は、そんな俺を見て笑っていた。その恍惚とした表情は、鳥肌が立つほど気味が悪かった。

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