おかしいのは僕だ
―? ?―
僕は、洋風庭園の長椅子に座って息を整えていた。
「僕がおかしいの? でも、こんなに違和感を感じるなんて……なんで」
僕が、おかしいと思っているのは主に三つ。
一つ目は、家族でご飯を食べようと言われた記憶が一切ないということ。でも、気が付いたら僕は食べていた。皆には父上から食べようと言われた記憶があるのに、僕にはない。
二つ目は、皆の年齢だ。皆が若返っているように感じるのだ。閏は一人で食事が出来る年頃であったはずだし、皐月はもっと背が高かったはずなのだ。睦月の髪はもっと長かった気がするし、美月はもっと感情の表現が上手かったはずなのだ。父上と母上はそんなに変わってはいなかった。あえて、違いを挙げるとするならそれはしわの数だろうか。
三つ目は、父上が王であるということ。何となくだが、父上は王を退位していた気がするのだ。そして、僕が王であったような気がするのだ。
これらは全て根拠のない違和感。しかし、どうにもこれを解決しなければすっきり出来ない。
(違和感のあるここがおかしいのか、違和感を感じている僕がおかしいのか……僕は何に違和感を感じてるんだ? あ、全部時が関わってる。急に始まって……そこは……)
僕は考えた。違和感の元凶を、何故感じるのか、何が原因なのか。そして、一つの結論を出した。
「ここは……過去?」
もし、ここを過去と仮定すればその違和感はいくらか消える。皆が若いのも、父上がまだ王であるのも。
何が理由で、僕が過去に来てしまったのかは分からない。しかし、そんな非現実的なことはあり得るのだろうか。異世界に続く開かずの扉を開くことが出来たのならまだしも、僕は何かをしたという記憶がないのだ。過去に飛ぶと、記憶が壊れてしまうのだろうか。
「うっ!」
突然、目に激痛が走った。何かに貫かれたような痛みだ。目に何かあったのかと、僕は恐る恐る触れてみた。だが、感じたのは自身の肌の感触だけ。
その手に何かついていないかと思ったのだが、付着するものは何もなかった。ただ激痛を感じただけ。理由もなく、突然。
(僕がおかしいのか……)
その痛みが落ち着いた後、そんな考えが湧いてきた。もはや、理解しようと思うのが間違っているような気がしてきた。過去なんだの、馬鹿馬鹿しく思えてくる。
(別に、このままでもいいかな。過去とか未来とか……僕は今、幸せを感じていたじゃないか。そもそも、冷静に考えれば開かずの扉を使うとかもあり得ないな。僕はやっぱりおかしい。おかしかったんだ。僕がどうかしているだけだ……そう、どうかしてる)
「帰ろう」
違和感を感じるのは考えるからだ。違和感なんて気のせいだと思えば、それでいい。あやふやなのは僕だ。
(僕があやふやなんだ。そうだ……僕が。このままでいいんだ。このままで……)
僕は考えるのをやめた。考えることに意義などないと気付いたからだ。考えることで苦しむなら、考えなければいい。僕はそのことに気付いたから。




