違和感ばかりの
―? ?―
「ふ~」
簡潔に言うと、食べ過ぎた。睦月の作った料理が、あまりにも美味しかった為だ。目に映る食べ物全てが美味しそうに見えて、実際に食べるとやはり美味しくて……それを繰り返した結果、吐きそうなくらい食べてしまった。
「よく食べたわねぇ、流石男の子」
そう言う母上の膝で、閏が寝息を立てて眠っていた。
「これふぁいふつうでひょ」
美月が、口をもぐもぐとさせながら言った。
「ちゃんと食べ切ってから物を言え」
「ふぁーい」
穏やかな日常が、当たり前にあるこの日々が何故だか懐かしく感じた。
「それにしても、貴方から急に皆で昼食を食べようだなんて。まるで、遠足の気分だったわ」
母上は、閏の頭を撫でながら言った。
「……気まぐれだ」
(前にもこんなこと……前? 違う、あれ? 駄目だ、考えたらおかしくなりそうだ)
「昔もこんな風にしたこと……あったっけ?」
「え!? あるの? 皐月が何歳の時? 教えて!」
「何を言っている?」
「やっぱり巽、変。熱あるのかも」
美月が僕の額に触れる。その手は少し冷たくて、思わず体が反応してしまう。
「ない」
「ないよ!」
おかしくなるほどの熱が出ていたのなら、こんなにも食べることは出来ないはずだ。意識も朦朧とするだろうし、ましてやこんな風に座ることも難しいと思う。
「年頃の男の子だから……」
睦月が片手に頬を添えて、少し神妙そうな表情を浮かべる。
「違う! え、年頃?」
勢いで否定してしまったが、年頃というのに引っかかった。確かに今の僕は年頃である。
恐らくだが、皆の年齢から考えると僕は推定一八歳くらいだと思う。自身の年齢に推定をつけなくてはならないことに疑問を感じるが、今の年齢を信じることが出来ない。どうにも、違和感を覚えて仕方がないのだ。自分が一八歳だと、思い込むことが出来ないのだ。
「年頃でしょ、一八歳だし」
「うん……」
睦月は首を傾げて、不思議そうに僕を見つめる。そんなに見つめないで欲しい。
「いつか、巽様が王になったら……」
睦月は、そう呟いた。
「多分、遠い未来ね」
美月が、お茶を飲みながら言う。
「そんな話はよさないか」
父上が俯きながら言った。
(父上が……まだ王? ん、まだ? あれ? 分からない……分からない)
「ご、ごめん。ちょっと……」
気が狂ってしまいそうだった。全てがあやふやで、何となくで動いている。平和でも穏やかでも、それが幸せでも気分が悪くなる。自分だけがこの世界に、収まることが出来ていないような。
「どこ行くの~兄様」
「あ、あ……ちょっと用を……すぐ戻るから。ごめん」
僕は靴を履いて、皆の声が聞こえないように走った。僕は怖かったのだ。違和感ばかりなのに、それを感じているのは僕だけであるということに。