夢のよう
―? ?―
「いっ!」
何者かに後頭部をはたかれた。
「何で食べないの」
懐かしい声がした。隣を見ると、そこには、美月がおにぎりを手に持ちながら真顔でこちらを睨んで……いや、見つめていた。
「何で? 何でって……え?」
状況がまるで飲み込めなかった。恐る恐る顔を上げると、そこには家族がいた。睦月が美味しそうにお寿司を食べているし、皐月が林檎を丸かじりしている。閏は、母上にご飯を食べさせて貰っている。父上は険しい表情で、黙々と野菜を食べ続けている。
皆が敷物に座って弁当を囲んでいる。それに、ここは庭だ。城が近くに見えるから間違いない。しかし、僕はここで最初から食べていたのだろうか。そんな記憶がない。急に頭をはたかれたこと以前のことが分からない。
(あれ? 何で? おかしい……)
皆の顔を見て、違和感を感じていた。僕の体感では、皆が若返っているように思えた。特に閏と皐月は、明らかに幼くなっている。閏は、もう自分で食べることが出来たはずだ。それに、皐月はもう少し背が高かったはず。
「……どうして、僕らはここで食べてるの?」
そう僕が質問すると、皆食べるのをやめた。母上と父上は眉を顰め、皐月と閏は顔を見合わせる。睦月は苦笑いを浮かべながら僕を見つめ、美月は相変わらずの無表情でこちらを冷たく睨んでいる。
「急に何を言い出すの? 変な子ね」
睦月が、最初に口を開いた。
「巽は元々変だよ」
美月が、それに返答する。
「変じゃないよ!」
「変だけど」
「変じゃないってば!」
「……喧嘩をするな。折角、家族で食べているというのに。全く……いつまで経っても成長しないな、お前達は」
父上が苛々を隠し切れない様子で、そう言った。
「すみません……」
「チッ」
美月の舌打ちが、父上に聞こえていないことを祈りながら僕は弁当箱からおにぎりを取り出した。疑念は晴れないが、これ以上火種の原因を大きくしてはいけない。
「いただきます……」
おにぎりにかぶりついた。
「美味しい……!」
味覚におかしな所はないようだ。ほのかな塩味と海苔の味がちょうどよく合わさって、食欲が増す。
「睦月が作ってくれたのよ」
母上が微笑みながら、睦月を見つめる。
「ふふ……張り切って作った甲斐があったわね。料理長にも負けてないでしょ?」
「それはどうかな?」
「酷い!」
睦月は、頬を膨らませた。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけだから」
睦月は食べることが好きだ。でも、まさか作ることも出来るとは思わなかった。
(あれ? 何がおかしかったんだっけ? まぁ、いいか)
澄み渡る青空を、僕は見つめた。穏やかな風に乗せて、鳥達が歌う。
(平和で穏やか……それに皆で過ごせるなんて……僕はなんて幸せなのだろう)
まるで、夢のようだった。