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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十九章 貴方を超えて
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永久の夢

―中庭 夜―

 魔剣から発せられる青い光が、強くなっていくのが分かる。


「くっ!」


 剣から鈍い音が聞こえ始める。


(壊れる……!?)


 これは、僕が初めて剣を持った時から使っているものだ。様々な相手に使ってきたが、こんな音が聞こえたことはない。例えば、巨体を持った男との力任せの勝負の時もこの剣は耐えた。

 それなのに、魔剣を持った普通の体形のゴンザレスとの勝負で、こんな音がし始めるとは思いもしなかった。


「さぁ、いくぜ?」


 そう言った瞬間、ゴンザレスの持つ魔剣から発せられる青い光が一筋の光となって、魔剣から飛び出していく。


「な……」


 生まれて初めて見る光景だった。そもそも、魔剣が魔剣として使われるのを見たことがなかったのだ。

 魔剣は作った者か、選ばれし者にしか扱うことが出来ないらしい。その為、魔剣を作る技術が廃れた今、かつて魔剣と謳われた物は全てただの装飾品扱いである。

 それなのに、ゴンザレスはそれを自分で作り使いこなしている。自分の行為が、どれだけのことか分かっているのだろうか。


「奥義……アクア・ワルツ!」


 その言葉の直後、光は無数に枝分かれした。それはそれぞれ独立した動きをしながら、僕に襲いかかってくる。

 その光は水であることが、近付いてくるにつれて分かった。水が発光しているのか、発光している光が水になったのはか分からない。

 僕は咄嗟に、その水を打ち消す為に炎の魔法を使った。それぞれの光は小さく、打ち消すことくらいは容易だと思ったからだ。


「無駄だぜ?」


 ゴンザレスの余裕の言葉の通り、無数の小さな水の光は炎を通り抜けて現れた。


「どうして……うがっ!」


 凍てつくような冷たさが僕を襲う。払いのけようとしても、光はそれを潜り抜けて僕の体へとぶつかる。それにより、体勢を保つのが難しくなった僕はその場に膝をついた。


「どうだ? まだまだ奥義は使えるぜ」


 ゴンザレスは再び剣を構えた。今度は、赤い光を発し始める。


「なんで……そんな……」


 右手の指が動かない。視線を向けると、手が凍てつき氷のようになっていた。その時気付いた、無数の毛が手を覆い隠していることに。僕は恐る恐る、左手を見つめる。左手は幸いにも凍っていなかった。しかし、毛が覆い隠してることに変わりはなかった。


「俺は俺が頂点に立つ為なら、どんな手段でも使う。卑劣でも卑怯でも、それが悪だろうが善だろうがどっちでもいい。俺は俺の為にやる。少なくとも俺はそういう人間だった、本能的にね。どれだけ自分を騙しても、本当は分かってる。俺は俺が嫌いだ。でも、俺は俺だから。俺の為に、お前を救う」


 ゴンザレスは、宙に浮かび上がりながら言った。


「死にそうな気分を与えてやるよ」


 そして、剣を高らかと掲げる。剣は真っ赤で眩しい光に包まれていく。


「舐めるな……」


(僕の体が……心が凍てつくまで終わらない。油断大敵だって……化け物と戦うのにそんなんじゃ駄目だ。僕が……身をもって教えてあげる)


「疾風迅雷……」


 僕は、動く左手をゴンザレスに向ける。


「射抜き、滅せよ!」


 今、僕に残る全ての魔力を捧げた。突如、目を開けるのも苦しくなるくらいの風が吹き、大地が揺れるほどの雷鳴が響く。


「ふわぁっ!? 小鳥……!」


 ゴンザレスは、遥か上空に浮いている小鳥を見つめて叫び、手を伸ばす。


(大丈夫だよ、君にしか当たらないから……)


「ううぅ……ぐぁぅっつあぁ!」


 もう限界だった。でも、僕に出来ることは全てやった。最低限のことばかりだが。座っているのも苦しくて、僕はその場に横たわる。体に走る激痛も、息苦しさももう感じなくなった。


「頼んだよ……これかぐあうっあがう……」


 僕は望む。遠い未来がこの国に訪れることを。偉大なる国として、発展を続けていくことを。


 ――おやすみ、末永く。永久の夢に――


 それが僕に聞こえた最後の音だった。ゴンザレスに降りかかる稲妻の光だけを僅かに僕は感じた。そして、それが最後に感じた情報だった。

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