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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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星は見ていた

―秘密基地 夜―

 重く痛い体を、何とか引っ張りながら穴を潜り抜けた。その時、度々壁と擦ってしまい、それによって激痛が体を襲った。脱ぐ時を間違えたと後悔した。

 そして、穴を不自然な形にならないように塞いで、建物の裏から出ると、ようやくここにも捜索の手が伸びていたようで、いくつかの小さな光が動き回っているのが見えた。


(顔に出やすいんだよな……僕。なるべく俯いておこう)


 胸に手を当てながら息を吐いて、その光の集団へと向かう。


「人影!? あれは……巽様か!?」


 地面しか見ていないので、確かではないが、多分医者の藤堂さんの声だと思う。


(良かった。ちゃんと僕だと認識されて……)


「おい! こっちだ! 酷い怪我をされている……急いで担架を!」


(ゴンザレスは、まだ眠っているのかな。あっちの誤魔化し方はまだ考えてなかった。それに、このズボンも……)


 しょうもない問題と大きな問題が重なると面倒な問題になること、それに気付いた。


「巽様! 一体何が……」


 その声でハッとすると、いつの間にか僕のすぐ先に、藤堂さんの靴が見えた。周囲にも、わらわら靴と血のついた剣が見えた。


(剣……?)


「巽様はこっちだ! 急げ!」

「睦月様と東は……?」

「この辺りにいるんじゃないの!?」


 周囲に居た者達が、興奮気味に叫ぶ。そして、藤堂さんが僕を抱き抱える。


(ここはどうするのが正しいだろう? 淡々と理由を説明する? 泣き喚く? 怒り狂う? よし)


 ほんの一瞬の間、僕は自分のするべき行動を考え、即座に決定した。


「死んだ」


 僕のその言葉に周りが凍りついていくのを、感覚で判断することが出来た。


「えっ……?」


 藤堂さんが、小さく震えているのも感じ取れる。


「そんな……嘘でしょ……」

「化け物に殺された、一瞬で。僕が悪いんだ。僕が、僕が……未熟なばっかりに! 僕の剣は、奴には届かなかった。未熟者の僕だけが逃げ延びた! 睦月達が、無残にも跡形もなく殺されたんだっ! 僕のせいだ。僕が怪我でも風邪でもなければ二人は救えた筈なんだっ! うううっ……」


 最後に顔を手で覆い隠して、嗚咽するフリをする。その下では必死に笑いを抑え込んでいた。


(僕だってちゃんとやれば、顔さえ隠せば、上手く出来るじゃないか。それにしても、騙す方は気が楽だな。この調子なら、国は崩壊はしない。良かったね、睦月、しばらくはちゃんと暮らせるよ)


「巽様は悪くありません!」

「そうだ! 悪いのはあの化け物だ!」

「恐らくですが、我々の見た化け物と巽様の見た化け物は一緒でしょう。随分ボロボロでしたしね。あの時、既にもう……」


 背中に生温かい物が落ちたのが分かった。泣いている。そう、藤堂さんもこの僕の嘘を完全に信じている。

 罪悪感がないと言えば、嘘になる。でも、その罪悪感は小さい。何故なら、仕方のないことだからだ。

 睦月と東の幸せと願いを優先し、国の崩壊を招かない為の嘘。僕の名誉を代償に、国の名誉も守られる。だからか達成感の方が大きい。とても。最悪の事態よりは、幾分とマシだ。

 嘘は、嘘をついた者達が黙っていれば、その証拠を消し去れば、バレない。嘘が嘘だとバレなければ、その嘘は真実となって歴史に刻まれる。嘘は真実になれる。真実も嘘になれる。

 気が遠くなるほど時が過ぎれば、もうそれは揺らがないだろう。誰も永遠に疑わない。

 遠くより、人の足音が聞こえる。担架が来たのだろう。


(色んな人から、もっと詳しく聞かれるだろうな。過程を追って詳しく説明しよう。ゴンザレスも厄介だが、あっちは大したことないな)


 僕は、やがてその持ってこられた担架の上に乗せられた。その時、覆い隠していた手の隙間から星が覗く。星は、僕が醜く感じてしまうくらい、美しく輝いていた。

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