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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十九章 貴方を超えて
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匂いを辿れ

―地下牢獄 夜―

(行かなきゃ)


 足を一歩、また一歩踏み出して前に進んでいく。地面のひんやりとした感覚が、いつの間に怪我をしたのか分からないが足の傷に染みる。しばらく立っていなかった為か、まっすぐ歩くことすら出来ない。


「うう……」


 他の者達がいる牢屋の鉄格子を掴みながら歩くことで、やっと僕は牢獄の出口へと辿り着いた。

 しかし、扉は固く閉じられている。すると、向こう側で背を向けていた見張りが僕の存在に気付いた。


「な!? 貴様!」

「どのようにして抜け出した!?」


 すっかり恐怖に満たされた表情を浮かべて、見張り達が叫ぶ。


(面倒臭い)


「ここは、人間だったら絶対に出ることが出来ない……だけど、もう俺はそうじゃないから」


 もし、ゴンザレスが僕の立場だったらこんな風に言う気がする。

 この牢獄は、人間の魔力を封じる。では、人間以外だったら? かつて、僕はそれを試した。大人の小鳥を救い出すことが出来るかどうか、ホヨを使って。見事に成功した。今回も。つまり、僕はもう――。


「お前、急いで皆……いや、興津大臣を呼んでこい! 大変なことになる!」

「でででででもよ! これっておいら達の失敗になんじゃねーの?」

「知らんわ! いいから早く!」

「これで、職なしになったらどうすんだよ!?」

「じゃあ、俺らだけでどうにか出来るのか!?」


 見張り達は、目の前で言い争いを始めた。


(醜い……醜いな)


 言い争っている余裕など、彼らにはないはずなのに。だが、僕はそれを利用する。二人が言い争いに気を取られている間に、僕はここから出て父上の所へ行く。


「どうする!?」

「どうするって、さっきから俺は興津大臣を呼んでこいって言ってんじゃないか!」


 僕は、扉を拳で思いっ切り殴った。


「ぐおっ!?」

「ぎゃぁぁ!」


 すると、凄まじい爆音と爆風と共に道が開けた。目の前で言い争っていた彼らは、もういない。どこかに吹き飛んでしまった。壁に大穴が空いているから、その奥にでもいるだろう。


「僕を……認めてくれるよね。父上……」


 手に着いた汚れを払いながら、僕は階段を上った。そして、僕は思った。


(こんな人間の範囲を超えた力を……いよいよ、僕は終わりだな。いや、やっと終われる。この苦しみから解放されるんだ。どうせ誰かを傷付けるくらいなら、失うくらいなら意識がない方が幸せだ)


 僕は地下を出た。懐かしい眩い電気の光。豪華絢爛だ。地下の小さな火の光とは全く違う。僕は思わず、目をすぼめた。


(探さなきゃ……)


 僕は匂いを吸った。色々な匂いがする。地下とは違って、美味しそうな匂いだ。下の人間達は栄養がないに等しい。生きる屍も当然。新鮮さが失われて、味はかなり落ちているだろう。それに引き換え、こっちは違う。


(父上に匂い……辿ろう)


 この場に微かに匂いがある。これを辿って行けば、父上の場所が明らかなるだろう。


(皐月やゴンザレス、興津大臣やらに見つからないように匂いの確認をしないとね……あの音が地上にまで聞こえてなかったらいいが……)


 僕はそれぞれの匂いを嗅ぎ分けながら、父上の匂いを辿った。

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