王の間
―ゴンザレス 王の間 夜―
「ここが……王の間」
俺と巽の父親は、王の間と呼ばれる場所にいた。俺が仕事を終えたから寝ようと思ったら、部屋の前で待ち構えていやがったのだ。
本来なら、俺じゃなくて巽がいるはずだった。しかし、今はややこしいことに俺が巽である。巽は俺として牢獄で寝続けている。
「嗚呼、そうだ」
男の背中を見せつけながら、巽の父親は言う。今更感はあるが、巽の父親と今の俺が言うのは変な話かもしれない。未だに迷うのだ、この世界の人々の呼び方を。
とりあえず、俺は元々こっちの世界の住人ではないので、巽を巽と呼ぶし、巽の父親を巽の父親と呼ぶことにしている。他の人達もそうだ。
「どうして急にここに?」
「……見れば分かることだろう」
見れば分かる。確かに分かる。王の間は、金一色と呼ぶにふさわしい場所だった。上のシャンデリアも金だし、壁も床も金。奥にある玉座も金だ。
唯一、王座まで敷かれている絨毯だけが赤で出来ている。その絨毯も明らかに高いものだ。この部屋にあるものだけで、どれほどの金額になるだろうか。
(目いてぇ……)
「こんな悪趣味な場所、あっても仕方あるまい」
「誰が作ったんですか?」
「父だ。権力と財力を見せつける為に、わざわざ作らせた部屋。もう十年近く使っていない。ならば、有意義に使うのがいいだろう」
(こっちの世界と俺の世界のじいちゃんの性格は、そんな変わんねぇみたいだな)
向こうの俺の家はじいちゃんの趣味で作られたと言っても過言ではない。無駄にでかい家、庭にある滝やら池、ブランド品しかない窒息しそうなくらいの場所。いや、とっくに窒息していた。
(向こうはどうなってんだろうな……)
「巽、聞いているのか?」
「え? あ、すみません。この場所に圧倒されてて」
「……保存状態は悪くない、床の方は価値は下がるかもしれないがあの玉座ならいい値になるはずだ」
「そうですね」
こんな話を王族がしているなんて、末期だ。俺の中で、王族ってのはギリギリまで呑気にやってるイメージだ。自分が死にそうになってようやく焦りだす。本当に、民のことを考えているのは一握り。
だから、ここに来て俺は驚いた。王族が色んな苦悩を抱えていることを知ったから。そして、俺も押しつけられる形で仕事をやって理解出来た。王族は、王は背負っている物が大き過ぎると。それに押し潰されて苦しんでいたのが、あいつだったのだと。
「父上、感謝申し上げます」
俺はとりあえず、あいつっぽく振る舞った。この辺の難しい話は、後でじっくり考えようと思う。グッバイ、俺の睡眠時間。
「まさか、こんな形で役に立とうとはな……すっかり忘れていたが、無駄な物などないってことか」
(なんで忘れるかなぁ……)
王の間は、今は使われていない方の棟にあった。もし、もっと早く気付いてくれていれば、巽があんな国の特質にあった選択をせずに済んだかもしれない。皆を平等に不幸にしようだなんて、考えにも至らなかったかもしれないのに。