証明
―? ?―
気が付くと、僕は灰色の空間にいた。それは、かつて僕が作り出した異空間とよく似ていた。
「ここは……」
僕はこの空間を作った記憶はない。だから、ここにいる訳が分からなかった。
「巽」
目の前には父上がいた。先ほどまではいなかったのに、一度瞬きをしたら、最初からいたかのように立っていた。そして、僕に冷たく視線を向けている。
「父上? どうして?」
そう聞くことしか出来なかった。混乱していた為だ。さっきまで僕は地下にいたはずだ、それなのに何故……。
「お前にはがっかりしている」
脈絡もなく、父上はそう言った。ただ、父上の発したその言葉に心を抉られるような衝撃を覚えた。その為だろうか、それに対しての言葉を返せなかった。
「王として失格だ」
鋭利な刃物で抉られた心を、さらに突き刺されていくみたいだ。
「何故、私はあの時王を退位するなどという選択をしてしまったのか」
父上は淡々と、僕への失意を述べ続ける。
「お前は無力そのもの。お前自身が何も出来ないということを、これまでで全て証明した」
「えぇ、本当」
懐かしい声がしたと思えば、父上の隣に睦月がみすぼらしい格好で現れた。
「全て巽のせい。うちがこうなったのも全て」
睦月の体つきは、以前に比べて遥かに細くなっていた。元々細い人だったが、それ以上に。骨と皮だけで出来ているのではないかと思ってしまう。
「働けば働くほど苦しくなる生活……満足に得られない食事。もう限界よ。あんたが王にならなければ、こんなことにはならなかった。皆幸せに暮らせたのに」
睦月の体が徐々に骨になっていく。
「全部、あんたのせい」
骨がそう言った後、灰になった。
「ち……がう」
やっと口に出せたのは、責任を否定する言葉だった。違わない、全部僕のせいだと認識していた。だが、思わず口をついて出た。
「何が違うの」
いつの間にか、僕の隣に美月が立っていた。
「美月……」
美月は幸せな世界になるまで、目覚めぬ呪いにかけたはずだ。今、世界は幸せじゃない。僕が存在しているから。
すると、美月は僕の耳元で囁いた。
「全部巽のせいでしょ、皆が苦しんでいるのは。私がずっと苦しんでいたのもそう。巽の秘密を知ったせい。巽が嘘をつき続けていたせい。どうして、こんなになるまで放置したの。どうして私がこんな目に遭うの? 私の為? 違うわ、全部巽の為じゃない」
そう言った後、美月はその場に崩れ落ちる。そして、まるで死んでしまったのではないかと思うくらいに眠っている。
「巽さん……」
背後から懐かしい声が聞こえた。
「私思うんです。出会わなければ良かったって。出会わなければ……私はずっと海で暮らせた。消えることもなかった」
「違う……違う!」
僕は振り返った。しかし、そこに琉歌の姿はなかった。あるのは、無限に広がる灰色の空間だけ。
「兄様」
声のした方へ目線を下ろすと、皐月と閏がいた。そして、僕を睨みながら見上げていた。
「「嘘つき」」
「国の……未来のためだったんだよぉぉぉ!」
僕は耐えられなくなった。皆から一斉に責められて、誰が平然としていられるだろうか。それも全て正論。否定する僕の方がおかしい。
「ならば、お前の力を持って証明しろ」
再び目を開けると、皆の姿は消えていた。いるのは、最初と同じように父上だけ。
「私を超えたのだと」
「そんなの……どうやって」
「力を私を超えたのだと証明する。方法は一つしかあるまい。お前に、それが出来るのか……いや、出来ぬか? お前は貧弱で愚かな王――」
「違う! 僕は……父上を超える! 僕の弱さで国を汚しはしない! だから……」
僕は父上に向かって踏み切った。いつの間にか、持っていた剣の先を父上に向けながら。