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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十八章 すれ違ったままの心
341/403

証明

―? ?―

 気が付くと、僕は灰色の空間にいた。それは、かつて僕が作り出した異空間とよく似ていた。


「ここは……」


 僕はこの空間を作った記憶はない。だから、ここにいる訳が分からなかった。


「巽」


 目の前には父上がいた。先ほどまではいなかったのに、一度瞬きをしたら、最初からいたかのように立っていた。そして、僕に冷たく視線を向けている。


「父上? どうして?」


 そう聞くことしか出来なかった。混乱していた為だ。さっきまで僕は地下にいたはずだ、それなのに何故……。


「お前にはがっかりしている」


 脈絡もなく、父上はそう言った。ただ、父上の発したその言葉に心を抉られるような衝撃を覚えた。その為だろうか、それに対しての言葉を返せなかった。


「王として失格だ」


 鋭利な刃物で抉られた心を、さらに突き刺されていくみたいだ。


「何故、私はあの時王を退位するなどという選択をしてしまったのか」


 父上は淡々と、僕への失意を述べ続ける。


「お前は無力そのもの。お前自身が何も出来ないということを、これまでで全て証明した」

「えぇ、本当」


 懐かしい声がしたと思えば、父上の隣に睦月がみすぼらしい格好で現れた。


「全て巽のせい。うちがこうなったのも全て」


 睦月の体つきは、以前に比べて遥かに細くなっていた。元々細い人だったが、それ以上に。骨と皮だけで出来ているのではないかと思ってしまう。


「働けば働くほど苦しくなる生活……満足に得られない食事。もう限界よ。あんたが王にならなければ、こんなことにはならなかった。皆幸せに暮らせたのに」


 睦月の体が徐々に骨になっていく。


「全部、あんたのせい」


 骨がそう言った後、灰になった。


「ち……がう」


 やっと口に出せたのは、責任を否定する言葉だった。違わない、全部僕のせいだと認識していた。だが、思わず口をついて出た。


「何が違うの」


 いつの間にか、僕の隣に美月が立っていた。


「美月……」


 美月は幸せな世界になるまで、目覚めぬ呪いにかけたはずだ。今、世界は幸せじゃない。僕が存在しているから。

 すると、美月は僕の耳元で囁いた。


「全部巽のせいでしょ、皆が苦しんでいるのは。私がずっと苦しんでいたのもそう。巽の秘密を知ったせい。巽が嘘をつき続けていたせい。どうして、こんなになるまで放置したの。どうして私がこんな目に遭うの? 私の為? 違うわ、全部巽の為じゃない」


 そう言った後、美月はその場に崩れ落ちる。そして、まるで死んでしまったのではないかと思うくらいに眠っている。


「巽さん……」


 背後から懐かしい声が聞こえた。


「私思うんです。出会わなければ良かったって。出会わなければ……私はずっと海で暮らせた。消えることもなかった」

「違う……違う!」


 僕は振り返った。しかし、そこに琉歌の姿はなかった。あるのは、無限に広がる灰色の空間だけ。


「兄様」


 声のした方へ目線を下ろすと、皐月と閏がいた。そして、僕を睨みながら見上げていた。


「「嘘つき」」

「国の……未来のためだったんだよぉぉぉ!」


 僕は耐えられなくなった。皆から一斉に責められて、誰が平然としていられるだろうか。それも全て正論。否定する僕の方がおかしい。


「ならば、お前の力を持って証明しろ」


 再び目を開けると、皆の姿は消えていた。いるのは、最初と同じように父上だけ。


「私を超えたのだと」

「そんなの……どうやって」

「力を私を超えたのだと証明する。方法は一つしかあるまい。お前に、それが出来るのか……いや、出来ぬか? お前は貧弱で愚かな王――」

「違う! 僕は……父上を超える! 僕の弱さで国を汚しはしない! だから……」


 僕は父上に向かって踏み切った。いつの間にか、持っていた剣の先を父上に向けながら。

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