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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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悪夢から覚めた王様は

–? ?–

「巽ー巽ってばー」


 聞き覚えのある幼い声によって、僕は意識を取り戻した。


「あれ……?」


 自身の手を見た。その手は、ふっくらとした小さな子供の手だった。


「もーどうしたのー? ボーッとして、巽が鬼でしょー」

「そうだそうだー、捕まえられないからって拗ねるなー」


 少し離れた場所に、心配そうに僕を見つめる睦月と、真顔で腕を組み僕を見る美月がいた。


「別に拗ねてないよ!」


(何かおかしいような……何だろう?)


「ねぇ、何か変じゃない?」

「変って……何が? 美月分かる?」

「分からない、変なのは巽でしょ」

「僕は変じゃないよ!」


 僕は、二人に近寄ろうと走ると、「キャー!」と声を上げて、別々の場所に散らばった。


「待ってよ!」

「待たないよーだー、べーだ」


 僕に向かって美月は淡々とした口調で、挑発するように舌を出した。僕はそれに当然腹が立って、言い返す。


「待ってよ! 馬鹿美月!」

「馬鹿って言ったな。超馬鹿巽。絶対、捕まってやんないから」


 僕が追いかけても追いかけても、美月は速くて追い付かない。

なんだか、悔しくて情けなくて涙が出てきてしまった。


(泣いちゃ駄目、泣いたらまた弱虫って馬鹿にされる。僕は男の子だ。強くならなきゃ、強く……)


 自分に必死にそう言っても、一度溢れてしまった涙は簡単はとまらない。足も痛いし、息が苦しいし、やがて僕は走るのをやめた。

 美月は僕が追いかけていないことにも気付かずに、どんどんと向こうへと行ってしまう。


「ヒック……うう、行かないでよ。馬鹿美月……」

「あーもう! なんで、すぐこうなっちゃうかなぁ~? 普通に鬼ごっこぐらいしようよ~はぁ……」


 横の方から睦月が現れた。そして、僕の目線に合わせるようにしゃがむ。


「美月も美月だけど、巽も巽だよ~。馬鹿は駄目だよ、巽も馬鹿って言われたら嫌だったでしょ! 嫌なこと言われたり、されたりしてもグッと堪えたら、カッコいいよ! 難しいけどね。それが出来たら大人だよ!」


 にこっと、優しく僕に笑いかける。


「大人?」

「そ、大人大人!」

「頑張る!」

「おーよしよし、いい子いい子!」


 そう言って、僕の頭を優しく撫でた。


(僕も睦月みたいになれるかな……)


「おっと! 鬼に触ってしまった~! うちが鬼だなぁ~! 折角だから、逃げ足の速い美月を追いかけようかな!!!」


 睦月は立ち上がり、美月が先ほど向かった方向へと物凄い勢いで走って行った。


(速すぎでしょ。飛脚の人より速そう、凄いなぁ……)


 僕は思わず関心してしまった。


「僕も行こう!」


 その瞬間だった。


「どこに行くんだい?」


 僕の腕を誰かが掴んだ。


「うわっ!」


 振り向くと、そこにはおじさんがいた。


「びっくりした。おじさんか……」


 僕は、昔からおじさんとは仲が良い。周囲の人はおじさんを避けたり、近付くなと言うけど、そんなに悪い人には見えないし、色々教えてくれるから僕は好きだ。


「はははは、びっくりさせたみたいで、すまないね……君にお土産だ」


 おじさんが僕に手を向ける。でも、その手には何もない。


「え?」

「畿! 波! 古! 良!」


 その謎の言葉が発せられたその瞬間、僕は脳に激痛を感じた。同時に、おじさんの手から黒い何かが現れて僕を襲う。


「ぐうぅぅあああぅぅう!」


 声にならない声が出る。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 助けて……睦月……どこ?)


 すると、僕の耳元でおじさんが言った。


「嗚呼、やっぱり重症だ。大丈夫、私が治してあげるから」


――ごめん、今の僕では君の夢の世界に連れて行ってあげることが出来ないみたいだ。過去は悪い夢だね。もう少しだけ、僕にも時間を頂戴――


***

―秘密の道 夜―

 目が覚めると、そこは先ほどいた場所で寝転がっていた。秘密の道で僕は、あの現象になった筈だ。

 しかし、何故だか普通の姿に戻っていた。ただ、体の様子は明らかにおかしくなっている。目を覆いたくなるくらいの深い傷が体の至る所にあるのだ。


(破れた包帯も元に戻っているし、何があったんだろう?)


 そういえばさっき、夢を見たような気がする。いつもの通り覚えていないけど。僕は痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がって、壁へと向かった。


(もしこれでどうにもならなかったら……もう迷わない、さっきあの声が言っていた。挑戦すれば叶うと。国が崩壊しそうになったその時、僕は僕の願いのために挑戦する。この国の名誉は僕が守る。我が儘かな? いいや、それは王の使命だ)


 壁の向こうでは、騒々しい声が聞こえる。


(一芝居打つか。でも、この格好はまずいかな、上は脱ぐか。下は流石に無理だな、よし行こう)

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