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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十八章 すれ違ったままの心
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助け合うものでしょ

―第一会合室 昼―

 昨夜のことが嘘のように感じられる。当然のように、僕は王として皆の前にいる。久しぶりに開かれた会合、退屈な話し合い。しかし、今の僕にはそれすらも尊い。


「以下のことから、状況は芳しくないことは理解して頂けましたか? 主な原因は、やはり吉原の営業が停止していることが原因です。このままでは……」

「だったら、他の場所でやればいいじゃないか」


 書いてあることを読み上げただけの諜報局の大臣補佐に、僕が言えるのはそれだけだった。言われなくても分かることだ。この国の収入源の四割を失ってしまったのだから。

 その代わりとしての米国との取引は、まだ成果を上げていない。理由は簡単だ、あまりも高価過ぎるためだ。支援金は貰ったが、それは吉原の瓦礫の撤去作業に、ほとんど消えてしまった。


「そうもいきませんよ。吉原の印象はかなり悪いんです。化け物が遊女を殺した……そんな噂が国中に広まっているんですから。土地を提供したがる者もいませんし、国有地は既に建物があります」

「そんな噂が……」

「今回の件で、吉原を嫌悪する人が増えたんです。五十嵐殿もどこかへと行方をくらませてしまいましたし……はぁ」


 無理もない。あんな悲惨な様子を見聞きすれば、誰だってそう思うし、その噂が真実味を帯びてくる。外で何が起こっているのか、それすらも分からないまま、彼女らは死んだのだ。いや、殺されたのだ。


「そう。なら、もう一つしか方法は残っていないね」


 僕は椅子に座る皆を見渡す。顔色の悪い者、眠たそうな者、引き締まった表情を浮かべている者、この会合で思いはそれぞれだ。


「は~長い長い! やっと結論出んのね~」


 花宮大臣は、伏せていた体を起こし伸びをした。このことから言えるのは、彼女にこの会合がさっさと終わればいいと思っていたのは間違いないということだ。珍しく参加してくれたのは有難いが、場の空気を乱すのは勘弁して欲しいものだ。

 そんな彼女に、周囲の者達は冷たい目線を向ける。


「一応会合中だよ、礼節はしっかりとして欲しいものだね」


 そんな僕の指摘や周囲の冷たい目線など、彼女は気にする素振りを見せずに言う。


「だって長いだけじゃん。出て損したって言うか……で、その結論は何?」

「はぁ……」


(心配だな、大臣がこんなのでは。仕事はちゃんとしてくれているみたいだけど……)


 この先、大臣達の力は今まで以上に必要不可欠になる。閏が即位した時、支えになるのは間違いなく彼ら。しっかりとして欲しい。


「花宮殿、場を弁えよ」


 陸奥大臣が、ひさしぶりに口を開いた。彼はずっと腕を組んで黙っていた。そんな彼が口を開けば、流石の花宮大臣も黙らざるを得ない。彼がいる限りは、ある程度は大丈夫だろう。陸奥大臣の存在感は、大臣達の中で最も強い。


「は~い……」


 注目を再び僕に向ける為、咳払いをした。すると、一斉にこちらに視線が向けられる。


「……方法は一つ。なるべく多くお金を回収するには、国民達の力を借りなくてはならない」

「あらら……もしかして、それって重い税を課すってことですかねぇ?」


 栗原大臣は爽やかな笑みを浮かべる。しかし、それは爽やかに見えているだけだ。他の誰かが、同じように笑えば間違いなく不敵な笑みになるだろう。


「収入の三割を納めるように伝達するんだ。決しておかしなことじゃないだろう? 国が困ってる時は、皆が助けないと……皆が困ってる時は、国が助けてきたんだから。当たり前だろう?」


 そして、この話は会合が終わってすぐ国民達に伝えられた。勿論、それに反対する人々の声など僕には一切聞こえなかった。

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