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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十八章 すれ違ったままの心
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僕に出来ること

―洋風庭園 夜―

「痛いですかぁ?」


 目前が真っ赤だ。まるで、世界そのものが赤く染まってしまったみたいだ。一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。

 だが、待ちわびていた人物の声を聞いて全てを理解した。これでようやく終わるのだと。


「……どうして……若菜っ!」


 あれほどの高さから突然叩き落されたにも関わらず、十六夜は立ち上がって興津大臣と対峙していた。咄嗟の判断で、浮遊の魔法でも使ったのだろうか。かなりの勢いだった。

 現に、僕は立ち上がることすら出来ない。魔法を使う余裕すらなかった。何の為に我慢していたのか、情けない話だ。


「つまらないじゃないですか……何もかも思い通りなんて。予想外の出来事が起こった時、人は初めて必死になるんです。それを貴方は忘れてしまっていた。どうですか? 思い出せましたか? さぁ、どうしますか?」


 ねっとりと耳を撫でるように彼女は声を発する。その声色は明るい。恐らく笑っている。二人の表情を見ることは出来ないが。


「若菜まで、私を裏切るというんだね?」

「最初に裏切ったのは……貴方じゃないですか。私は……貴方の為に幼馴染にも手をかけたのに。貴方の為に、偽りの自分を演じてきたのに。もう今の貴方は私の憧れじゃない! その汚れた肉体からその魂を抜き取ります!」


 これから穏やかではないことが起こる。いや、もうずっと前から穏やかではなかった。穏やかでないことが起こったから、僕は立ち上がれないのだ。少しでも動かすと、果てしない痛みが僕を襲う。しかし、だからと言って何もしない訳にはいかない。


(このままだと誰か来てしまう……二人の関係がバレたら僕の思惑も叶わない。今僕に出来るのは……誰にも邪魔させないこと)


「っ……」


 僕は右手を天に向けた。向けたという感覚はなかったが、僕の目には右手が映っていた。


「僕らを……異空間に」


 こんな魔法をどうして知っているのか、分からない。誰かに教えて貰った記憶もないし、本を見て学んだ記憶もない。誰が使っていたのを見た記憶もない。

 でも、何故か使い方を知っていた。もしかしたら、これは僕ではなく化け物の記憶なのかもしれない。


「●◆×▼××●〇」


 脳内にあった言葉を発した。言わなければ意味がないと分かっていたから。しかし、自分で発した言葉であるにも関わらず何を言ったのか分からなかった。

 そして、場に異変が起こる。僕らの周辺だけが切り取られてしまったかのようだ。城も庭の草木も長椅子も全てなくなってしまった。場は灰色に染まっていく。冷たさも温かさも柔らかさも硬さも感じない。僕が作り出したこの空間は、異質そのものであった。


「巽、一体何をした!?」

「いいの? 僕を気を取られてて……彼女はお前を殺そうとしているのに」

「なっ……クソ!」


 近くでぶつかり合う音が聞こえた。その後、遠くで爆発音が聞こえた。


(もうここからは……彼女次第だ。私が全てやるみたいなことを言っていたしね。もうここに逃げ場なんてないよ。十六夜が死ぬまでこの空間はこのままだ……満足するまで殺ればいい)


 僕は十六夜がこの世から消えていなくなれば、それで満足なのだ。それさえ達成されれば、僕の計画の一部が果たされることになるのだから。

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