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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十八章 すれ違ったままの心
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風の叫び

―洋風庭園 夜―

「何故……記憶が、ど……うして」


 予想通りの反応だった。十六夜が封じた僕の記憶。それは十六夜にとって、不都合なことばかりだからだろう。実際そうだった。


「どうして? 封印の魔法に絶対なんてない。記憶を封印してくれていたお陰で鮮明さ。最近のことのように思い出せる。お前の顔を見た瞬間に浮かんで来たよ。可哀想な人だね」

「解けるにはまだ早い……だとすれば、何者かが記憶を? 少しお片付けをしなくてはならないね。その人物の名前を教えて貰えるかな?」


 動揺を隠し切れない表情のまま、十六夜は僕の胸ぐらを掴んだ。そして、軽々と僕を持ち上げる。これは脅迫だ。幼い頃にもされたことがある。

 まさか、大人になったのにここまであっさり持ち上げられてしまうとは。父上と兄弟だとは思えないほどに華奢な十六夜。それなのに、どこからその力が出てくるのか怪力の持ち主であった。謎の怪力は血筋だろうか。


「琉歌」


 試しに言ってみた。本当に、全員の記憶から消えてしまっているのか、それを確かめる為だ。


「あまり私を馬鹿にするな。お前がそんな人間と関わっていたという情報はない。城にもそんな奴はいない!」


 僕を見上げながら、十六夜は宙へと浮かび上がる。城の二階の窓が同じ位置に見えた。体の自由がない状態で、宙に浮くのはかなり恐ろしいものだ。

 そして、琉歌の記憶はこいつからも完全に消えてしまっているようだった。


「僕のこと、どこまで監視していたの?」

「監視とは人聞きが悪いな。お前は被験者。自由に動けるだけ喜ぶべきだな。本来なら経過等を見るなら、箱の中に閉じ込めて観察する方がいい。しかし、お前には環境ごとの変化が必要だった。それが最大の条件であったからね。これで分かっただろう? お前は実験の被験者。我が駒が、日々の変化の様子を観察していた」

「そんなに喋って大丈夫なの? その駒を僕が殺しちゃうかもよ」


 確実に駒なのは興津大臣、それ以外にいるのなら聞き出したい。


「お前にその駒を見抜けるとは思えない。その駒が自白すれば別の話だがね」


(その駒が自白してたけどね)


「そう……なら怪しい奴は手当たり次第に吐き出させるよ」


 興津大臣に、後から聞けばいいだろう。


「やれるものならやればいい。話が逸れてしまったな。さて、誰が解いたのかはっきり言って貰おうか」

「はっきり言ったじゃないか、封印を解いたのは琉歌だって」

「ふざけるなぁぁぁ!」


 気が付けば、僕の体は地面に叩きつけられていた。それなりに高さがあり、咄嗟に受け身をとったのだが痛かった。僕じゃなかったら死んでたかもしれない。

 体を上に向けると、目の前には苛立ちを隠し切れぬ様子の十六夜が僕を見下ろしていた。


「真実を言わぬのなら、何度でもやろう。今度はもっと高くするぞ。さぁ吐け! お前に、高所からの痛みに耐える拷問はしたことはないからな。お前は死ななくても痛みを感じる。その痛みにお前はどこまで耐える?」


 十六夜は僕の体を持ち上げた。


(興津大臣はまだ……なのか)


 匂いは感じる。先ほどよりも近い。しかし、姿は見えない。あえて抵抗せず魔力を溜めているというのに、このままでは僕の体が先に壊れてしまう。


「吐けぇぇぇ!」


 再び、力いっぱいに僕の体を下へと振り落とす。風の叫びが耳につく。どんどん十六夜の姿が遠くなっていく。そして、体全体を激痛が包んだ。


(僕は言ってるんだけどな……)


 十六夜の姿が二重に見え始めた。この理不尽な暴力で生きているだけでも褒めて欲しいものだ。また十六夜が僕の下に降りて、また掴み浮き上がる。今度は四階だ。


「苦しいだろう、そろそろ吐――」


 言葉の途中、また地面に叩きつけられた。

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