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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十七章 化け物の正体は
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意識を運べ

―ゴンザレス 実技室 朝―

 一言で、この状況を言い表すことは難しい。ただ、あえて簡単な言葉であっさりと伝えるのなら――。


「うぜぇ」


 誰も俺の言うことを信じてくれない。今まで俺は皆に嘘をついた覚えはない。狼少年ではないというのに、この熱い掌返し。

 確かに状況とか見たら俺しかいないのかなとか思うけど、でも違う。それを物的証拠で証明出来たらいいのだが。


「つか、いつまでこのままなんだ? 俺は」


 鎖でぐるぐる巻きにされ、息苦しいし体が痛い。魔法もまるで使えないし、俺は死にそうだった。友人だと思っていた奴には罵倒されながら踏みつけられるし、人間扱いされないし、もう最悪だった。俺のこの状況を小鳥に伝えることが出来たらいいのだが、この有様では無謀な願いだ。


「くそぉぉぉぉぉ!」

「うるさい奴だな、こんなことになっても」


 声のした方へ頑張って顔を向ける。これでは簡単な行動すらも難しい。当たり前とは当たり前ではないということに気付かされる。


「いつからそこにいたんだ、てめぇ」

「口が悪いな。僕は普通に扉を開けて入って来たんだよ。気付かない方が問題だよね、喚き散らしているからだよ」


 黄色い瞳で俺を見下す。少し前に、意味不明なことを言って勝手に出て行ったと思えば今度はこれだ。巽は、俺より相当忙しい奴だと思う。感情迷子と名付けよう。


「お前のせいでこうなってんだぞ? あ? 分かってんのか? お前の口からちゃんと説明しろ! そうすれば……」


 しかし、もう平和的な解決は難しいかもしれない。もっと前に、こうなるより前に巽が告白していれば……とめられなかった俺らにも責任はある。

 でも、嘘を重ねず生きてくれれば、きっと今とは違った未来があったはずなのに。だからといって諦める訳ではない。今ある道で、こいつも国も世界も未来も救う。

 絶対なんてないように、可能性が無にはなることはない。少しでも僅かでも粒子レベルでも、希望があるならそれを掴む。


「フフ」


 巽は不敵に笑った。


(なんだろう、なんかめっちゃ変。今まで以上に気味悪いな)


「……心配しないで、結果的には自由になれるから。君は君でなくなるけど、僕も僕でなくなるから。それでいいでしょ?」


 俺が、ギリギリ聞こえるくらいの囁き声で言った。


「はぁ?」


(駄目だこいつ、何言ってるのかさっぱり分からん)


 結果的に助かるとか、その間接的な言い方に寒気がする。おまけ程度に助かっても嬉しくない。助かることメインで助けて欲しい。とにかくこの拘束を解いて欲しい。


「よし」


 巽がそう言って扉を開いた。そこから四人の武者が入って来た。完全武装したその姿は、間違いなく敵意剥き出し。


「裁判なんて必要ない。悪はここにいる。地下牢に連れて行け!」


 巽の差した指が、冷たく突き刺さった気分だ。


「は……?」


 開いた口が塞がらなかった。戦々恐々と近付く武者達。皆、一緒に食事をした仲なのに。


「早くやれ」


 巽が苛々を隠し切れない様子で言った。それで、武者達が急いで俺の周りを取り囲む。


「はぁぁ!」


 背後で力強い声がした。正義に満ちた声、迷いなどない。同時に首から痛みが走って、そのまま意識は遠くへと運ばれた。

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