似た者同士
―自室 早朝―
「もう意味は分かりますね?」
部屋に入るなり、興津大臣はそう言った。
「分かる、分かるさ。僕でも」
十六夜綴を討つ時が来たということだ。こんな忙しい時に。いや、忙しいからこそ?
「城が今お祭り騒ぎでしょう? ですから、その哀れな様を見たいそうです」
「優雅な人だね……」
あいつは人の不幸が大好きなのだ。だからこそ、平気で人を騙すし陥れる。自分のことしか考えていない、厄介な奴。
「流石は私の愛する方です……あぁ……」
興津大臣は、恍惚の表情を浮かべる。
「僕にはどうしても分からない。愛する人を殺したいと思う訳が」
「愛と憎しみは紙一重と言うではありませんか。私は、本当の意味で彼を我が物にするんです。その為には、汚れた肉体から魂を出さなくては……」
恍惚の表情から一転、彼女は真顔になった。その目からは怒り、悲しみ、憎しみが伝わってくる。
「まぁいいや、君のことなんて。僕は、僕の目的が果たされるならそれでいい。それで、どうやってやるの」
恐らく、この辺の話を聞いても理解出来ないと思った。気持ち悪さが増すだけだと思った。
「あぁ、そうですね。あの方が来るのは今日の夜です。ゴンザレス様にも、実験が出来たらしたいと言っておられました」
「実験?」
「巽様と同じようなことですよ。元々、するつもりだったんです。ですが……上手く融合させることが出来なくて、かなり時間が掛かってしまいました。フフ、巽様と同じですから誰よりも適合すると思ったのでしょう。しかし、残念ながら今は流石にそれをすることは出来ないでしょうね。私は早速それを伝えなくてはなりません」
ゴンザレスにも、僕みたいに化け物を植えつけるつもりらしい。話を聞く限りでは最近作ったもののようだ。恐らく、僕と全く同じな化け物ではないだろう。
今、分かっているだけでも化け物には相当種類がある。化け物は龍の能力を組み合わせた物。つまり、組み合わせ方によって特徴は変わる。
(化け物は組み合わされた存在……でも、どうして僕はそれを知ってるんだ? 僕が僕じゃない誰か? 誰かって誰? 違う、こんなことを考えてちゃ駄目だ)
「余計な真似を……いいの? あいつの目的が果たせなくなるけど」
「全てが、上手くいくのも面白くないじゃないですか。きっと、上手く行かない方が面白いって思ったんです」
「そう……」
「私の目的は成功させることではありません。楽しむことなんです。それが至福の時なんです!」
彼女はそう言い切ると、僕に抱き着いた。体から熱が奪われていく感じがする。
「や、やめて――」
「似てるんです、あの方とどことなく。安心出来る……優しさが微塵も感じられないあの頭の掴み方。まぎれもない巽様の意思……その残酷な姿が本当に似てるんです」
「違う! あいつと一緒にするな!」
僕は彼女を投げ飛ばした。あいつと一緒にされるのが、本当に苦痛だった。昔なら嬉しかったかもしれない。
でも、今はただ貶されているのと同じこと。床に倒れた彼女は肩を揺らし、笑いながら言った。
「ウフフフ……貴方はただいつものようにして下さればそれでいいですからね。アッハッハッハハ!」
ただただ不気味な笑い声が部屋に響いた。掻き回された気分の悪さが、増幅させられていった。